小学生の夏休み自由研究 「理科力」をつける工作を

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受験などに必要な科目と違い、軽視されがちな自由研究。
しかし、自由研究はその後につながる「理科力」をつける絶好のチャンスだと知っていましたか?
せっかく時間をかけて行うのですから、ただこなすだけではもったいないです。
この記事では、理科力アップにつながる自由研究を、特に工作課題にフォーカスしてご紹介します。

目次

  1. 自由研究って、そもそも何のためにあるの? 
    • 自由研究の目的は、子どもが自分で考える力を伸ばすこと
  2. ものが動く仕組みを知る〜歯車の工作
    • まずは、歯車同士を噛み合わせる
    • 動きを増幅・減速させる
    • 回転方向を変える
  3. 華麗に変身!折りたたみの不思議を学ぶ 
    • いろんなところで活躍する「折りたたみ」
    • 必要なのは紙だけ!実際にさまざまな折りたたみを試してみよう
  4. 揚力を簡単に実感!お家で凧揚げ
    • 浮く物体の不思議
    • 歩くだけでスイスイ凧揚げ!
  5. まとめ

自由研究って、そもそも何のためにあるの? 

自由研究の目的は、子どもが自分で考える力を伸ばすこと

保護者としては、算数や国語などの、将来の受験に必要ないわゆる「主要五科目」にどうしても注目しがちですが、実社会で必要とされるのは、そういった科目を総合して自分自身で考えられる力です。
しかし、塾や教科書などで学べる各科目の知識と違って、自分で考える力は一朝一夕で身につくものではありません。
そこで是非活用したいのが、自由研究です。

 

自由研究は、夏休みの終わりに1日で適当に済ますものというイメージをお持ちの保護者の方も少なくはありませんが、自由研究は子どもの自分で考える力を伸ばすために課されている課題で、うまく活用することで将来役に立つ力をつけることができます。

実際、各都道府県などで小学生の自由研究のコンテストが行われていて(※1)、研究者も息を巻くような成果が得られることもあり、そういったコンテストで優秀な成績を収めた子どもの中には将来大学教授になったり、社会的に成功を収めたりしているケースも多いものです。

もちろん、そういったコンテストへの入賞の中には何年もかけて完成させたものも多く、簡単なことではありませんが、同世代の子どもたちがどういう自由研究をしているのかを知ることができます。
地域のコンテスト入賞作品の展示などがあれば、それを一緒に鑑賞することで、子ども自身が大きな刺激を受けるのではないでしょうか。

 

また、そういった展示は博物館などの施設で行われることが多いため、常設展などを見学することも子どもの好奇心と探究心を育むいい機会になるでしょう。

しかし現実的には、「そんなことをいわれたって、何日も自由研究に費やすわけにはいかない…」という場合も多いでしょう。

この記事では、そういった時間が限られている場合でも対応でき、かつ理科力もアップできる工作課題を、具体的にご紹介したいと思います。
また、このページで紹介する工作はいずれも特別な道具は必要としないうえ、もちろん自由研究として区切りをつけることはできますが「この形になれば完成」という形がないので、子ども自身が興味を持てば夏休み以降も自ら進んでその工作を続けて、理科、そして工学への理解を深める助けになるでしょう。

 

※1:山口県立山口博物館 サイエンスやまぐち2018 開催要項/2019年2月11日現在
http://www.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/event2018/science.html

ものが動く仕組みを知る〜歯車の工作

電車や車などの乗り物をはじめとする、動く部分があるもののほとんどには内部に歯車が組み込まれています。
機械に興味がある子どもの場合は、自由研究でもそういった「ものが動く仕組み」に迫れるようなものを選ぶと、興味を持って進めやすいでしょう。
そこで今回は、段ボールを組み合わせてできる歯車の自由工作についてご紹介します
また、歯車の動きを知っておくことで、将来高校物理で「トルク」「角速度」などの概念を学ぶ際に、実感を伴って学習することができるでしょう。

 

まずは、歯車同士を噛み合わせる

歯車を作る基本は、まずは歯車同士がしっかりと噛み合う必要があります。
つまり、両方の車の淵にギザギザの歯を作って、それらが等間隔になるようにしなければなりません。
そこで、身近なもので歯車を作る際に役立つのが、段ボールです。
段ボールの断面を見たときに、2枚の厚紙の間で波のようにギザギザの厚紙が入っていて、それによって強度が保たれています。

段ボールのこの中紙の波の大きさは、同じ段ボールでは一定になっていますので、歯車の「歯」として使うにはもってこいの材料です。
段ボールの外側を支える厚紙のどちらか一方をうまくはぎとって中の波打っている紙を露出させ、歯車の真ん中に相当するもの(発泡スチロールなどをくり抜いて作った円形のディスクなど)の太さに合わせて段ボールを切り取って貼り付けると、歯車の出来上がりです(※2)。

 

歯車は一つでは回りませんので、直径や歯の数が違う歯車をいくつか用意し、それぞれの歯車の一部に色を塗りましょう。
これは、実際に回したときに何回回転したかを調べやすくするためです。

 

そして大事なことは、実際に実験を始める前にどういう結果が予想されるか、なぜそういう結果になると思ったのかを書き留めておくことです。

ただ漫然と実験を行うよりも、自分自身が立てた予想が正しいかどうかを確かめる方が、興味を持って楽しく行うことができます。
予想通りにはならなかった場合でも、実際の結果と自分の予想を見比べて、何が間違っていたのかということを、より真剣に考えることにつながるでしょう。

 

動きを増幅・減速させる

大小の歯車を組み合わせることによって、歯車自身の動きを大きくしたり、小さくしたりすることができます。
また、それによって歯車の回転数も変わり、直径の小さい歯車ほど回転が早く、その結果回転数が多くなり、直径の大きい歯車では逆に回転が遅く、回転数は少なくなるということを、いくつかの歯車の組み合わせ実験を実際に行って確かめましょう(※3)。
高学年の子どもの場合は、歯車の組み合わせの違いでどういった回転数の違いが生まれるのか、法則性を見つけるチャレンジをするとより良いでしょう。
そういった実験の積み重ねから法則を見つけることは、理系に限らず文系でも、社会に出てから必要となるスキルです。

 

また、知的好奇心を自分自身の力で満たせたということで自信がつき、勉強に対する苦手意識を払拭することにつながるかもしれません。
さらに、歯車のこの実験は、高校物理でいう「トルク」の概念を肌で感じることができるものです。

物理の苦手な子どもの中には、実際に物体同士の間に力が働いている実感がわかないため興味を持たないというケースもあります。
小学校時代に自由研究を通してトルクを実感しておくと、そういった物理の「とっかかり」部分でつまずいてしまう可能性も低くなるのではないでしょうか。

 

回転方向を変える

2個の歯車を単純に組み合わせるだけでなく、余裕があれば、3個以上の歯車を組み合わせる実験にもチャレンジしてみましょう。

歯車が2つの場合、回転方向は逆になっていましたが、3つの場合はどうなるでしょうか
そして4つ、5つと増やしていくと?

答えとしては、隣り合う歯車は互いに反対方向に回転するので、自分の2つ隣の歯車と同じ方向に回転します。

なので、同じ方向に歯車を動かしたいときには最低で3つの歯車がいるということです。

高学年の子どもの場合は、この回転方向の変換と、上で紹介した歯車の直径と回転数の関係を組み合わせて、3つ以上歯車を連結させた場合の歯車の動き方を調べると良いでしょう。
これも、実験結果という具体的な経験から一般的な法則を見出す良い訓練になります。

 

さらに余裕があれば、離れた場所にある歯車同士を段ボールの波部分でできたベルトでつないで、ベルトを動かすことで歯車を回転させるなどの応用実験ができます(※3)。
ベルトでつながれた歯車同士は同じ方向に回転しますので、逆にいうとベルトがあれば歯車2つでも同じ方向に回転させられるわけです。

夏休みのうちにこういった自作の「歯車実験キット」を作っておくと、夏休みが明けた後でもそれを使って遊ぶことができます。
私たち大人でも、自動巻の時計などで歯車の動きを目にするとなんとなく楽しくなるものです。
子どもの場合は、なおさら興味を持ちやすい課題といえますので、夏休みの自由研究を利用して「実験インフラ」を整えてあげれば、自分一人で学ぶ喜びを見出すきっかけとなるでしょう。

※2:フジカット有限会社 制作実例集目次 学校 「力の伝達機構 歯車工作」/2019年2月11日現在
https://fujicut.co.jp/seisakujiutureisyuu-mokuji/gakkou-pe-ji/tikara/tikarano.html

※3:マブチモーター株式会社 Let’s Mortarize! 工作のヒント集 「回転と力の伝わり方」」/2019年2月11日現在
https://www.mabuchi-motor.co.jp/motorize/teck/

華麗に変身!折りたたみの不思議を学ぶ 

いろんなところで活躍する「折りたたみ」

ものを小さく折りたたんだり、違う形にしたり、元の形に戻したりというのはとても重要なことですが、実は案外大変です。


例えば、人工衛星につけるパネルなどは、そのままの姿では大きすぎて大気圏外に持ち出せないため、現在折り紙を参考にして折りたたむことでうまく持ち出せるようにするための技術開発が進んでいます(※4)。
折り紙以外にも、実は折りたたみ方法の参考になるものは自然界にたくさんあります。

例として、昆虫の羽があります。

カブトムシやクワガタ甲虫と呼ばれるこれらの昆虫は、硬い羽根の下に、膜状の薄い羽を折りたたんで収納しています。

飼育したことのあるご家庭では、収納がうまくできずお尻から下の羽根が見えている姿を目にしたこともあるのではないでしょうか。

また、飛ぶ姿を見てみると、意外と大きな羽に驚いた方も少なくはないかもしれません。

 

さらに、非常に小さなスケールでも、自然界には折りたたむ技術が隠されています。

例えば、私たちの身体を形成するたんぱく質は、数十から数百のアミノ酸が連なった長い鎖のようなもので、そのままでは場所をとりすぎますし、そもそも機能しません。
しかし、実際のたんぱく質は長い鎖のような形ではなく、一定の形に折りたたまれることによってコンパクトにまとまり、またそれぞれの機能を発揮することができています。

このように、自然界にはさまざまな折りたたみ方の形があります。
折り紙などを通じてそういったさまざまな折りたたみ方を実際にやってみることで、「ここをこう折ったら、こういう形になる」と、平面と立体をつなぐイメージを持つことができます。

これは、幾何学的な思考で必要とされる能力ですので、将来数学を勉強する際の基礎体力をつけることにつながるでしょう。

 

必要なのは紙だけ!実際にさまざまな折りたたみを試してみよう

折りたたみを自由研究の対象とする良いところは、実際に宇宙開発などで使われるすごい技術を、たった紙一枚で実感できることです。
その中で代表的なものが、「ミウラ折り」と呼ばれる折り方です。
ミウラ折りは、当時東京大学宇宙航空研究所に在籍していた三浦公亮氏が考案した、平面的な構造をできるだけ小さく折りたたむ方法です。

ミウラ折りは、宇宙にロケットを打ち上げる際に、太陽光発電のためのパネルをできるだけ小さく収納して搭載するために編み出されました。
そのため、小さく折りたためることに加えて、広げる際にもグチャグチャにならずにすぐに広げられるというメリットがあります。

自由研究で実際にミウラ折りをしてみて、その機能を実感してみましょう。

 

ミウラ折りの大きな特徴は、折り目が直角でないという点です。
まず、A3またはB4の大きな紙を用意します。

ミウラ折りは折る回数が多く一枚の紙がかなりの数の平面に分割されてしまうため、書類として使われることが多いA4サイズでは小さすぎてうまく折れないからです。
大きな紙を用意したら、まず山折りと谷折りを交互に繰り返して、縦に五等分となるように折ります。

そうして細長くなった紙の長軸側が七等分になるように、ペンで目盛りをつけていきます。
そして、右から3目盛り分の長さを折り曲げます。
ポイントは、この際直角ではなく斜めに折ることです。
そのため、折った後の紙は一直線ではなく、非対称なV字型のようになります。
そして、この斜めの折り目と平行になるように、他の五つの目盛りについても折り目をつけていきます。
この作業の目的は折ることそのものではなく「折り目をつけること」ですので、山折りを谷折りに、谷折りを山折りにと、折り目を反対に折り直して、紙に折りグセをしっかりつけましょう。

これまでの一連の作業によって、紙は蛇腹に折りたたまれてだいぶ小さくなりましたが、これでは引っかかりがあって、開いたり閉じたりすることが難しいです。
そこで次のステップとしては、せっかく折った紙ですが、思い切って全部広げてしまいましょう。

左端からジグザグの折り目にしたがって順に山折り、谷折りを繰り返して、左右方向に紙を縮めていきます。

そうすると、折り目がジグザクになっているので、自然に上下方向にも縮み、最終的には小さく折りたたまれたミウラ折りが完成します(※5)。
完成したミウラ折りの左下の隅と右上の隅を両手でつまんでゆっくり引っ張ると、ワンタッチで開閉できます。

 

ミウラ折りはミウラ博士が考案した方法ですが、実は羽化するときのチョウのはねの折りたたみ方も、これと似た方法であることがわかっています。

昆虫好きな子どもであれば、ミウラ折りと合わせて、甲虫を解剖してはねの折りたたみ方を調べて、可能であれば折り紙で再現できるよう試行錯誤してみることも良いでしょう。

幾何学的な発想力が身につくとともに、生物の体の仕組みを深く知る助けにもなります。

※4:株式会社ミウラ折りラボ/2019年2月11日現在
https://miuraori.biz

※5:西山豊 「ミウラ折り」 (「数学を楽しむ/ミウラ折り」『理系への数学』 Vol. 38, No. 9, 48-51に掲載)」/2019年2月11日現在
https://www.osaka-ue.ac.jp/zemi/nishiyama/math2010j/miura_j.pdf

揚力を簡単に実感!お家で凧揚げ

浮く物体の不思議

軽い凧を持ち上げる力も、飛行機を持ち上げる力も、実は同じ「揚力」と呼ばれる力です。
揚力というと難しく感じますが、簡単にいうと、物体に対して上向きに働く力のことです。
この揚力は、普通に生活しているとなかなか実感できませんが、空気の中では普通に働いている力です。
こういった、物体にかかる力の方向を分解して考えることは、高校物理で基盤となる考え方ですので、小学校のときから自由研究を通して身をもって物体の動きとかかる力を実感すると良いでしょう。

 

歩くだけでスイスイ凧揚げ!

地面に平行に飛ばした凧よりも、地面に対して斜めに傾いている凧の方がうまく飛ぶことは、凧揚げをしたことのある人であれば誰でも経験的に知っていることでしょう。
これは、凧に当たった空気(つまり風)が斜め下に逃げて、その反作用で斜め上に力がかかることによって浮き上がるという、凧揚げの原理が背景にあるからです。

これは、凧の上がりやすさは「いかにうまく風を逃がすことができるか」にかかっていることを意味します。
そこでこの性質を利用すると、風のない家の中でも、歩きながら引っ張るだけでグイグイ揚がるミニ凧を作ることができます。
ミニ凧で重要なことは、風を逃がす構造ですので、普通の凧のように真っ直ぐな形ではなく、反った形にします。

この際、反り具合に偏りがあれば片方に強い揚力がかかってしまいうまく飛ばなくなりますので、左右対称になるように注意して作りましょう。
また、下側に細長い紙を左右対称に2枚つけると、それらが尻尾のようにバランスをとる役割を果たして、より姿勢が安定するでしょう(※6)。

凧の反り具合や尻尾の長さ、歩く速度などを変えて、凧の動きがどう変わるかを実験して、なぜそんな違いが生まれるのかを考えてみるといいでしょう。
また、実際に実験してみる前に、どういう結果になりそうか予想を立てることも、論理的な思考力を磨く上で有効でしょう。

※6:NGKサイエンスサイト 実験ライブラリー 「おうちの中でたこあげ大会」/2019年2月11日現在
https://site.ngk.co.jp/lab/no198/tools.html

まとめ

自由研究は夏休みの最後に適当に片付ければいい、とお考えの保護者の方も多いので、すぐに結果は出ないかもしれませんが、真剣に取り組むことで確実に考える力を育むことができます。
高校や中学で本格的な理科の勉強を始めたときに、「これって小学校のときに自由研究でやったことと同じだ!」と親しみを持っている子どもと、ただの教科書上の知識として授業を受ける子どもと、果たしてどちらの伸び代が大きいでしょうか。
せっかく時間をかけてやる自由研究ですから、子どもの興味に合わせて、楽しみながらできる工作を提案できるといいですね。

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