「赤ちゃんと英語」赤ちゃんにはいつからどう教えていくのがベスト?
親世代が初めて英語に触れたのは、いくつの頃だったか覚えていますか?
日本では2011年から、小学校5年生と6年生で年間35単位時間の「外国語活動」が必修化されました。
これを受けて、ここ数年は幼稚園や保育園でも、英語の時間を設けているところが増えています。
最近では、赤ちゃんの頃から聞かせる英語の歌のCDなども販売されるようになりました。
では、子供たちに英語を教えるのは、いつからが良いのでしょうか。
目次
- 赤ちゃんの耳に、言葉はどう届く?
- 胎児から乳児まで、赤ちゃんの聴覚はこう発達している
- 赤ちゃんの耳にやさしい言葉とは?
- 赤ちゃんからの英語、実は賛否両論がある
- 賛成意見:英語は早いうちからグローバルな人生を
- 反対意見:英語よりまずは日本語を習得してから
- 日本人に不足気味なコミュニケーション能力を養うには、どちらが有効?
- 英語と日本語、一緒に学ぶなら文化の違いも学んでおく
- 英語と日本語の大きな違いは、文章の構成
- 言葉が違えば文化も違う
- いつ、どうやって英語の学習をスタートするのか
- 色々な世界があることを、小さな頃から伝えていこう
- ママやパパも知っておきたい、文化の違いは考え方の違い
- 英語教育は子供と向き合ってからはじめましょう
赤ちゃんの耳に、言葉はどう届く?
胎児から乳児まで、赤ちゃんの聴覚はこう発達している
胎児の耳には、さまざまな音が届いています。
その多くは、母体の心拍音や、子宮周囲の血流音などですが、胎児にとって心地よく、また大切な音として認識しているのが、母親の「声」だといわれています。
実際、胎児が聞いていたとされる「子宮内の音」は、一般にも販売されており、泣いている新生児を落ち着かせる効果があるとされています。
出生後、新生児期の頃はまだ聴覚は十分に発達しておらず、初めて聞く外界の音に、一生懸命、慣れようとしています。 ※3、※4
生後間もなくから6か月頃までの間は、音を聞き分けるというよりは音に対して反応する時期であり、おおよそ次のように発達していると考えられています。
- 1か月未満:突然の物音に対して驚く、目を閉じる
- 1か月:突然の物音に対して目を開けて覚醒する、行動が止まる
- 2か月:音のする方向を気にする
- 3か月:人の声への反応が多様化する、周りの音への反応が増える
- 4か月:声や音に対し、選択的に反応する
- 5か月:小さい音に反応し始め、音のする方向へ素早く確実に向くようになる
- 6か月:知らない音におびえる、話しかけるとじっと聞くようになる
この頃から生後2年くらいまでの間、実は赤ちゃんの聴覚は、まだ不完全な状態です。
聴覚に関係する組織はすでに出来上がっているのですが、音の信号を伝える「神経組織」が、まだ十分に発達しているわけではないためです。 ※1、※2
赤ちゃんの耳にやさしい言葉とは?
赤ちゃん(乳児期)の耳に届く音にはさまざまな音がありますが、この頃は上記の通り、「突然の物音」への反応が多い時期です。
逆に、ざわざわした雑踏の音や、胎児の頃から耳に届いていると思われる家電製品の音などは、赤ちゃんにとっては反応するような音とは捉えていません。
例えば、街中で聞こえるような「ざわめき」音や、公園などで聞こえる鳥や虫の声、遠くから聞こえる子供の声などは、赤ちゃんにとっては反応するほどの音ではないため、ある程度の音がする場所でも、すやすやと眠ってしまうのです。 ※3、※4
生まれたばかりの赤ちゃんは、男性の声よりも女性の声を好むといわれています。
音の周波数の問題のようですが、過去に行われたさまざまな研究により、とりわけママの声を好む傾向があることも分かっています。
つまり、赤ちゃんにとっては、雑踏の中の「ざわめき」や、遠くから聞こえる音は雑音にしかならず、一方で、赤ちゃんに対して静かに語り掛ける声、とりわけママの声は、耳にやさしい、それでいて反応に値する音として捉えていると、考えられます。 ※1、※2
※1 J-STAGE 胎児をとりまく音環境
https://www.jstage.jst.go.jp/article/souonseigyo1977/13/4/13_4_197/_pdf
※2 J-STAGE ヒトの聴覚の発達と発達障害
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe1987/12/7/12_7_30/_pdf
※3 金子龍太郎監修 保育に役立つ!子どもの発達が分かる本 2011年7月発行 ナツメ社
※4 西坂小百合監修 0~6歳 わかりやすい子どもの発達と保育のコツ 2016年10月発行 ナツメ社
赤ちゃんからの英語、実は賛否両論がある
賛成意見:英語は早いうちからグローバルな人生を
以前の日本では、英語教育のスタートは中学校からでした。
しかし2009年以降、小学校高学年での英語教育がスタートしてからは、それよりも早く、幼児の頃からの早期教育に力を入れる幼稚園や保育園が増えました。 ※5、※6
日本には「子供のうちに新しいことの学びを始めれば、あまり苦労せず英語を身につけることができる」という、早期英語教育に対する期待感が、根強く存在しています。※5、※6
実際に、幼児期に語彙を増やしておくことで、その後の学習にも良い影響が出ることが分かっています。
また、子供が話す言葉を覚え始めるのは2~3歳頃ですが、この頃から第二外国語として英語を学んでおくことで、「英語の授業に対する苦手意識」を、克服することが出来る可能性もあります。※5、※6
さらに、人には「学習における臨界期」というものが存在するといわれています。
ある事例をあげてみましょう。
生まれた時から言葉を話さない環境で育った、13歳の子供が保護されました。
話すことが出来なかったため、保護された後にたくさんの訓練を受けましたが、結果的に2~3歳程度の言葉しか獲得できなかったそうです。 ※7
これは日本の例ではありませんので比較は難しいのですが、日本人の幼児なら2語文程度(「これ、食べる」など)でしょうか。
一方、やはり言葉を話さない環境で育った6歳半の子供は、保護された後の訓練により、2,000語以上の単語を習得したといわれています。 ※7
日本人の幼児なら、おおよそ4歳以降くらいの語彙を獲得していることになり、実年齢よりも少し遅れている程度です。
この様に、「言葉は早い時期から学んだ方が、後に獲得できる語彙が違う」という、学習上の臨界期があるため、早期英語教育を行うべきだ、という意見があります。 ※7
反対意見:英語よりまずは日本語を習得してから
では、反対意見をみていきましょう。
反対意見のポイントは、「日本人として日本で生活するなら、まずは日本語を習得してから第二外国語を学ぶべき」という点です。※8
その根拠の一つとして挙げられるのが、日本の早期英語教育で学ぶ英語は、あくまでも日常会話の習得がメインであり、ビジネスとして使うのは大人の英語あるいは英語の規範言語である、という点です。
「日常会話」の英語は、仮に子供の頃から海外で生活するような場合には、すぐに環境に慣れるため、それなりに役立ちます。
しかし、海外で仕事をするとか、海外向けの文書を英語で書くという目的での英語は、文法をしっかり理解していかなくてはならないため、習得には本人の努力と、非常に長い時間を要します。
このタイプの英語力を付けるには、早期英語教育の中でどこまで学ぶべきかという課題が出てきます。
子供のうちから、非常に難しい文法を覚えることはできず、途中で、英語を学ぶこと自体に拒否反応を示す可能性があります。
すると、そこから先は「英語を学ぶ」ことすら難しくなってしまうのです。
日本語でのコミュニケーションが十分でないうちから、新しい言語、しかも日本語とは言葉の使いかたや文法が違う英語を無理に学んでも、身にはつかない、むしろ英語を学ぶ気がなくなってしまうので反対だ、という意見があります。※8
日本人に不足気味なコミュニケーション能力を養うには、どちらが有効?
言葉はコミュニケーションを取るために必要な道具ではありますが、本当の意味でコミュニケーション能力を養うなら、言葉力以外にも必要な能力があります。
例えば、想像力。
「今この言葉を話すと、相手はどう感じるだろうか」という、相手の気持ちを推し量る想像力は、コミュニケーションの上で必要な能力です。
あるいは、理解力。
相手が発している言葉が、何を意味しているのか、何を伝えようとしているのか、こういったことを考え、理解し、自分の中に一旦留めることで、相手との会話は成り立ちます。※3、※4
現在の日本人には、こうした能力の上に成り立つべき、コミュニケーション力が不足しているといわれています。
では、日本語と英語、どちらの言語を使えば、コミュニケーション能力は向上するのでしょうか。
これにはまだ、明確な答えがありません。
想像力や理解力は、乳幼児期からのさまざまな経験により、自然と身についていくものです。
日本人であるなら、まずは日本語でしっかりとコミュニケーションを取ることを、目指すことも必要なのかもしれません。 ※3、※4、※8
※3 金子龍太郎監修 保育に役立つ!子どもの発達が分かる本 2011年7月発行 ナツメ社
※4 西坂小百合監修 0~6歳 わかりやすい子どもの発達と保育のコツ 2016年10月発行 ナツメ社
※8 斎藤兆史ら著 「グローバル人材育成」の英語教育を問う 2016年10月28日初版発行 ひつじ書房
※1 J-STAGE 胎児をとりまく音環境
1. https://www.jstage.jst.go.jp/article/souonseigyo1977/13/4/13_4_197/_pdf
※5 日本英語英文学会 幼児期の英語教育について ─早期教育、幼小連携から考える
http://www.jaell.org/gakkaishi25th/yokoi.pdf
※6 江戸川大学教職課程センター紀要教育総合研究 第2号(2013) 幼児期・児童期における早期英語教育のあり方
http://id.nii.ac.jp/1193/00000194/
※7 日本音響学会誌 72 巻 3 号 (2016), pp .137-143 子どもの聴覚発達と音環境
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/72/3/72_KJ00010252412/_pdf
英語と日本語、一緒に学ぶなら文化の違いも学んでおく
英語と日本語の大きな違いは、文章の構成
日本語の場合、「主語+目的語+述語」という並び順で、文章が構成されます。 ※9
「私は(主語)先週の日曜日にこのカバンを(目的語)買いました(述語)」という順番で、それぞれの単語が並びます。
日本語の場合、主語は省略することもあります。 ※3、※4
上記の例文でいえば「先週の日曜日にカバンを買った」でも、意味は通じます。
一方の英語は、「主語+述語+目的語」という並び順で、文章が構成されます。
先ほどの文章を英語にすると、「I bought this bag last Sunday.」となります。
これは、Iが主語、boughtが述語で、this bag last Sunday は全体で目的語を表します。
英語の場合は、主語+述語は、省略ができません(特殊な文章を除く)。
また、日本語には「てにをは」という助詞がありますが、英語にはこの考え方がありません。
日本語では、一つの単語+助詞 という組み合わせを入れ替えても、意味が通じる文章になります。
例えば先ほどの「私は先週の日曜日にこのカバンを買った」は、「このカバンは先週の日曜日に買った」でも良いですし、「このカバンを買ったのは日曜日」でも通じます。
英語で主語を「カバン」にすると「This bag was bought to me on Sunday.」となります。
主語が「このカバン」なので、買ったという動詞は「買われた」になってしまうわけです。 ※9
言葉が違えば文化も違う
日本語は、主語を隠してしまうことがあります。
例えば「コーヒーが入りましたよ」という言葉、日常的に使うことはありませんか?
この文章は、日本人の中では通じるのですが、主語が隠れています。
英語に置き換えようとすると、「私がコーヒーを入れた」となるのですが、「コーヒーが入りましたよ」だけだと、コーヒー(主語)が、自ら「(カップに)入った(述語)」と捉えるようです。
日本人の場合、話題の対象を主語にする、という言葉の使い方をします。
今回の例文でいえば、話題の中心はコーヒーであり、誰が淹れたのかは話題の中心ではありません。
これは、他国には無い文化だといわれています。 ※11
また、ある大学で行われた研究によると、外国人留学生との交流があるかどうかで、さまざまな物事への対応能力に違いがあることが分かりました。
外国人留学生との交流がある学生の方が、大学での勉強の方法ならびに進捗、大学での研究や学習の満足度などが、高い傾向にあったのだそうです。
実際、外国人留学生との交流がある群では、無い群の学生よりも、コミュニケーションは常に言葉で明確にする、勉強の過程で教師に意見や反論をすることなどに、行動が伴っている傾向がありました。
一方の交流が無い群では、これらの事柄を必要だと考えてはいるものの、行動が伴っていない傾向があったのだそうです。
その根底には、コミュニケーション能力や、異文化交流への積極性などに違いがあるのではないか、と述べられています。 ※10
※3 金子龍太郎監修 保育に役立つ!子どもの発達が分かる本 2011年7月発行 ナツメ社
※4 西坂小百合監修 0~6歳 わかりやすい子どもの発達と保育のコツ 2016年10月発行 ナツメ社
※9 長野大学紀要 第37巻第2号 1―12頁(27―38頁)2015
日本語と英語の違いを意識した英語学習 ―語順、時制を中心に―
https://nagano.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=1160&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=17
※10 独立行政法人 日本学生支援機構 ウェブマガジン「異学交流」2012年4月号 Vol.13
日本人学生と留学生の異文化交流 -異文化接触、協働的活動を通した大学教育への適応と意識変容‐
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2012/__icsFiles/afieldfile/2015/11/19/kazukonakagawa.pdf
※11 野村総合研究所 NRI学生小論文コンテスト 2013年特別審査委員賞[留学生の部] 異文化理解による正しいコミュニケーション
https://www.nri.com/jp/event/contest/results2013/pdf/ru03_2013.pdf
いつ、どうやって英語の学習をスタートするのか
色々な世界があることを、小さな頃から伝えていこう
英語の歌のCDや、英語を使う子供向けのテレビ番組などで、赤ちゃんの頃から英語に「耳慣れておく」ことは、いずれ学問として学ぶときに役立つでしょう。
赤ちゃんにとって心地よい響きの言葉であれば、良い記憶として残り、いずれ英語を学び始める時に、すんなりと英語の世界に入れるかもしれません。 ※3、※4
やがて発語が出る時期になれば、いくつかの単語は英語でもいえるようになるでしょう。
例えば「おいしい」を意味する「yummy」や、嬉しいを意味する「happy」という言葉が記憶にあれば、すぐにでも使うことができます。
しかしこの時はまだ、英語での会話を求めるのではなく、音に慣れることを目的とします。
ママやパパとの会話が日本語ならば、まずは日本語での会話がある程度成り立ち、子供が自分の感情を上手く表現できるようになり、想像力や理解力が身についてから新しい言語に触れると良いでしょう。
年齢として5歳くらい、幼稚園や保育園で英語の活動時間を設けるようになる頃を目安にしてはいかがでしょうか。※3、※4
ママやパパも知っておきたい、文化の違いは考え方の違い
日本と英語圏をはじめとする諸外国は、文化そのものにも違いがたくさんあります。
子供のころから英語を習うのであれば、単語や言葉の違いだけではなく、こうした「異文化」も合わせて学べると良いでしょう。 ※3、※4、※12
本当の意味で異文化に触れ、英語での会話を覚えるならば、英語教室に子供を預けてしまうのではなく、次のようなポイントに注意しながら、その英語教室での指導内容を見てみると良いでしょう。
- 子供がどのように英語を学んでいるのか
- 外国人とどのように交流しているのか
- 文化の違いをどのように教えているのか
子供が英語教室で体得してきた文化や言葉を、ママやパパも子供と共有することで、子供が抱く疑問や好奇心に応えていくことが出来ます。※3、※4
言葉は、コミュニケーションを取る上での重要な道具であり、これはどの国の文化でも変わりません。
日本語と英語の違いを自分たちも再確認しながら、子供が楽しいと思える時間を、子供と共有してみてはいかがでしょうか。 ※3、※4
物の捉え方や考え方が違うならば、両方を使い分けていくことで、物事を多角的に捉えることができるようになります。
可能ならば一緒に参加して、共に学んでいくという姿勢も必要かもしれません。※10、※11
また、英語、日本語関わらず、子供の言葉遅れで不安になっていませんか?
子供の言葉の遅れ、不安になってない?専門家に相談するタイミングは?
の記事では、年齢ごとの言葉の発達状況とママのサポート方法をご紹介しています。
※3 金子龍太郎監修 保育に役立つ!子どもの発達が分かる本 2011年7月発行 ナツメ社
※4 西坂小百合監修 0~6歳 わかりやすい子どもの発達と保育のコツ 2016年10月発行 ナツメ社
※10 独立行政法人 日本学生支援機構 ウェブマガジン「異学交流」2012年4月号 Vol.13
日本人学生と留学生の異文化交流 -異文化接触、協働的活動を通した大学教育への適応と意識変容‐
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2012/__icsFiles/afieldfile/2015/11/19/kazukonakagawa.pdf
※11 野村総合研究所 NRI学生小論文コンテスト 2013年特別審査委員賞[留学生の部] 異文化理解による正しいコミュニケーション
https://www.nri.com/jp/event/contest/results2013/pdf/ru03_2013.pdf
※12 J-STAGE 幼児の単語学習におけるアクセントパターン利用の発達過程
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/23/1/23_22/_pdf
英語教育は子供と向き合ってからはじめましょう
文部科学省の後押しもあり、近年では英語の早期教育が一般化しつつあります。
幼稚園や保育園にもその波は広がり、徐々にではありますが、週に1回、年間数回などの英語に親しむ時間が設けられるようになっています。
幼児期の英語については、
の記事をご覧ください。
このような環境なら「誰よりも早く、自分の子供には英語を学ばせたい!」と、多くのママは思うかもしれません。
でも英語にばかり気をとられていると、子供にとってはストレスにもなりかねません。
英語教育をスタートする時期も重要ですが、進め方にも気を配ってみませんか?
また、小学校で導入される英語授業については、
小学校で導入された英語授業はどんなもの?親が押えておくきポイントとは
でご紹介しています。