子供へのしつけと叱り方、本当にそれで大丈夫?
子育て中のママやパパの中には、「しつけ」の難しさや不安を抱えている方もいるでしょう。親は「楽しい子育て」を目指したいのに、子供のわがままに振り回されたり、ついつい怒鳴ってしまったり、不安で押しつぶされそうになったりしていることも多いのではないでしょうか。
子育てに正解は無いとはいえ、しつけや叱り方にはそれなりのお作法があるのも事実。
今回は、子供をのびのび育てるしつけや叱り方のポイントをお伝えします。
目次
- 「しつけ」とは何か
- 子供へ何を教えていくのか
- しつけのための土台づくり
- 「しつけ」と「虐待」のボーダーライン
- 叱り方の基本
- 虐待につながる親の行為
- 子供の成長に合わせたしつけと叱り方
- 幼児期まで
- 学童期
- 上手な叱り方のヒント
- 叱るときのルール
- 褒めることで愛情確認
- まとめ
「しつけ」とは何か
子供へ何を教えていくのか
「しつけ」とはどのようなことですか?と聞かれたら、多くの人は
- 公共の場で騒がない
- お友達を悲しませるようなことはしない
- 食事や着替え、トイレなど生活習慣が一人でできるように手助けする
など、子供に守って欲しいルールやマナーなどを挙げるでしょう。
しかし、それだけでは漠然としてしまい、どのような信念を持って「しつけ」をするのか、具体的に子供に何をどう教えれば良いのか、悩むことも多いのではないでしょうか。
親として、何を軸として「しつけ」をしていけば良いのか、これを知ることから始めてみましょう。
本来、しつけの軸は「子供が自立し上手に生きていくために、最低限の社会の決まりごとや人としてのあり方を伝える」ことです。
けれども、ただ伝えればよいというわけではありません。重要なのは子供がきちんと理解し自分自身で考え判断できるように導き、持っている能力を引き出す手助けをしていく、ということです。具体的に必要な決まりごとは、大きく2つあります。
●生活のルールや道徳
食事・トイレ・着替えなど毎日こなしていきながら習得していく、生活習慣に関するルール
●人同士が、よりよく生きていくためのルール
相手の気持ちを考え、思いやりを持って行動する、公共のマナーなど
これらは、ママやパパも理解はしているし、頑張って教えてはいるけれどもなかなか上手くいかないと感じている方も多いのではないでしょうか。
しつけは、親が「○○しなさい」といくら口うるさくいっても、子供がそれを本当に理解しなければ、自分の中でのルールとして消化できません。
その理由として考えられるのは、親の言葉を理解していても、その意味や、それを守らなかった時の影響を理解できていない、という点です。 ※1
しつけのための土台づくり
しつけを円滑に進めるためには、まず親子間での信頼関係をしっかり築くことが必要です。
例えば、イヤイヤ期や反抗期の子供には、「○○してはダメ」とだけ言っても、親の話しを聞かないのが当たり前です。
子供がまだ赤ちゃんの頃、赤ちゃんと見つめ合って微笑み合う、たくさん抱っこをする、などの愛情溢れる毎日の育児の中で、親子の信頼関係は築かれていきます。
そして、「どんなときでもお世話をしてくれる、ぐずれば抱っこしてくれる、いつでもそばにいてくれる」そんな両親に対し、赤ちゃんは「愛情・安心・信頼」という3つのことを学んでいきます。
この3つが満たされると、今度は赤ちゃんの方が「ママ(パパ)を笑顔にしたい」と、自然と考えるようになります。
さらに、子供に自我が生まれ、自分の言動に対する結果が出るようになると、今度は「達成の欲求」と「自立の欲求」という2つの欲求が出てきます。
達成の欲求とは「たくさんウンチ出たね」「ミルク全部飲めたね」といったように、できた体験(達成)により満たされる欲求のことで、自立の欲求はじきに芽生えてくる「自分で○○がしたい」という欲求です。
一般的には、「愛情・安心・信頼」と「達成の欲求」と「自立の欲求」の5つが満たされた子供は、両親が正しい方向に導こうと手を差し伸べたとき、その思いをくみ取り、やって良いことと悪いことを学んでいく気持ちが芽生えるようです。 ※1
※ 1
岩立京子 しつけ 2010年2月発行 日本放送出版協会
「しつけ」と「虐待」のボーダーライン
叱り方の基本
子供を叱るときに気を付けたいのが、諭す、叱る、怒るを使い分けるということです。
- 諭す:子供の欲求や悪い行いに対し、真剣な態度で感情的にならず、言って聞かせること
- 叱る:人の道に反した行為や危険な行為に対し、きびしく真剣に諭すこと
- 怒る:今この瞬間に正しておくべきことを、ガツンと雷を落とすように一撃で諭すこと
叱るも怒るも本来、「やらなかった行動」対して諭すものであり、「人格」を否定するようなことは言ってはならないです。
特に怒るというのは、親もつい感情的になり、いつまでも大声を挙げてしまうかしれません。
しかし本来は、「バシッ!」と短く怒り、後は諭すことが必要なのです。
親が子供をねじ伏せるような行為をダラダラと続けることは、怒ることの本質からずれてしまっています。
親が自らの感情に任せて歯止めが効かなくなると、子供の人格を否定したり、取り返しのつかないことにもなりかねません。
怒るべきときの状況・方法と間違った怒り方の線引きをしっかりと理解して、覚悟を持って怒ることが必要です。※1、2
虐待につながる親の行為
近年では誰もが知っているであろう「虐待」という言葉。
では実際には、どのような行為でしょうか。
厚生労働省の児童虐待の定義によると、虐待は以下の4つに分けられます。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト
- 心理的虐待
この4種類の虐待を単体で起こす場合や、2つ3つと複雑に絡み合って起こす場合もあります。 ※3
子供を叱る時、多くの方は子供の将来をよりよくしていくために「親の愛」を持って叱っていると思います。
しかし、子供を正しく育てようという気持ちが強すぎると、親自身の考えに柔軟性が無くなり、子供が反発した時に、親の思い通りにならないことに対しての悩みや不満が出てきます。
その結果、手を挙げたり無視したりという行為に繋がっていきます。
そして、子供の将来のためという愛情が薄れていき、親の思い通りにさせるためのしつけに変わり、叱り方もエスカレートして虐待となります。 ※4、5
では「叱る」と「虐待」の境目はどこでしょうか。
例えば、あなたが会社員で、上司から自分のキャパシティを超えた仕事を割り当てられ、「出来ない」と言った時、上司から罵声を浴びるのは、いわゆるパワハラです。
大人であってもこうした経験は、心に傷を負います。
つまり、これを子育てに当てはめるならば、ママ(パパ)が子供のためと考えていても、「子供がひどく傷つき苦痛を感じるならば、それは虐待」といえるのではないでしょうか。 ※4、5
そしてもう一つ、「諭す・叱る・怒る」の意味をはき違えているケースがあります。
「叱る」または「怒る」場面でも、優しく「諭す」方法で子供に言い聞かせていると、本当に危険な行為や、相手への影響の大きさを考えられないまま成長します。
社会に出たときに困惑してしまうようなしつけは、「優しい虐待」なのです。 ※4、5
2019年5月30日閲覧
※4 児童虐待防止全国ネットワーク 子供虐待とは
http://www.orangeribbon.jp/about/child/abuse.php
2019年5月30日閲覧
※5 児童虐待防止全国ネットワーク 子育てがつらい、悩みを抱えているあなたへ
http://www.orangeribbon.jp/parents/sos.html
※6 児童虐待の定義と現状
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/about.html
2019年5月30日閲覧
※ 1 岩立京子 しつけ 2010年2月発行 日本放送出版協会
※ 2石田勝紀 子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」 2017年9月 株式会社ディスカバー・トゥエンティワン
子供の成長に合わせたしつけと叱り方
幼児期まで
では、子供の成長にあわせてたしつけについて、考えてみましょう。
●0歳の頃
この時期は、親子の絆作りや信頼関係を築くことがとても大切で、スキンシップや声掛けをたくさんしてあげると、赤ちゃんは大人に対しての信頼感が芽生えます。
赤ちゃんの頃からしつけの土台作りをしておくと、その後のしつけはスムーズになる傾向あります。この時期のしつけは難しく考えず、毎日の育児の中でスキンシップや声掛けをしながら、愛情をたくさん伝えてあげましょう。
当然ながら、ハイハイをするようになると、行動範囲が広がり、好奇心も大きくなってきます。
家の中で赤ちゃんが触れると危険なものは片付けておく必要があります。※1、6
●1歳から3歳の頃
この時期になると、子供は叱れているということが感じ取れるようになってきます。
だいたい1歳を過ぎた頃から、早寝早起き食事のマナーなどの生活習慣を身につけさせましょう。
しかし、まだまだ理解力は未熟ですし、好奇心や興味の方が勝ってしまうので、数回叱ったところで同じことをしなくなるわけではありません。何度も繰り返し教えていかなければならないということを、覚悟しておきましょう。
ただし、何度も叱っているうちに強い口調や突き放した言い方になってしまわないように気を付けてください。
そして、叱ることが増え始めてくる「魔の2歳児」の頃は、かんしゃくを起こすことや駄々っ子になることが多くなってきます。
この時期は、心の発達がアンバランスになるという特徴があるためです。
大人から見たらまだまだ未熟で誰かの手助けが必要なのにもかかわらず、子供の方は「自分でこうしたい」という意志を持ち始め、その意志に忠実に従います。
そんな「魔の2歳児」と上手に付き合うためのポイントはまずは自分の力でやらせることです。
時間がかかってしまっても泣きだしたとしても、まずは本人の意志を大切にして見守ってあげましょう。
そして時にはアドバイスをしながら、出来た時には「スゴイ!」と褒めてあげます。この時期の親に必要なのは、冷静さと大らかさです。※1、6、7
●4歳から6歳の頃
だんだんと理解力が身に付いてきます。
これをすると人に迷惑がかかる、相手を傷つけてしまう、あるいは世の中のルールを元に叱ったとき、そのことが理解できて反省ができるようになってきます。
ですから、悪いことやしてはいけないことの理由をきちんと説明して諭していきましょう。
そうするとこで人との接し方やトラブルにならないための方法を理解し学んでいきます。
家庭でのルールや約束ごとを守ること、人と上手に関わっていくためのルールの大切さを教えてあげましょう。※6
学童期
小学生になると、幼児期とは違い、社会性が広がってきます。
小学校低学年では、引き続き人としてやってはいけないことや集団生活・社会のルールを守ることなどを身に付けていきます。
幼児期の面影を残しながらも、言語能力や認識力の向上により善悪への理解・判断ができるようになってきます。
それでも同じことや失敗は繰り返しますから、子供の目線まで下がり理解しやすい言葉で諭しましょう。※8
高学年になってくると、話もしっかりと理解できるようになってきます。
一方で親に対する反抗心も芽生え、早い子では思春期に入ります。
思春期の時期は、心が子供でも、体は大人に向けて急激な変化の最中にあります。
「自分らしくありたい」と思うようになり、さまざまな影響を受けながら自分を確立していこうと必死です。
ここでは、子供を一人の自立した人間として尊重しながら、社会のルールや人としての道理を教えていきましょう。
頭ごなしに叱ったり、「何を考えているんだ」などの拒否するような叱り方はやめましょう。 ※9、10、11
※8 文部科学省 子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1283165.htm
2019年5月30日閲覧
※9 e-ヘルスネット 思春期のこころの発達と問題行動の理解
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html
2019年5月30日閲覧
※10 京都市こころの健康増進センター 思春期のこころを育むためのガイド
http://kyoto-kokoro.org/wordpress/wp-content/uploads/leaflet/shishunki_series05.pdf
2019年5月30日閲覧
※11 UMIN 少年写真新聞社 中学保健ニュース第1639号付録 思春期に発病が多い 統合失調症
http://npsy.umin.jp/pdf/chugakuhokennews201511.pdf
2019年5月30日閲覧
※1 岩立京子 しつけ 2010年2月発行 日本放送出版協会
※6 北条博厚 6歳までの子育てに悩んだら読む本 2015年5月 株式会社 あさ出版
※7 石川憲彦 みまもることば 2013年11月 株式会社 ジャパンマシニスト社
上手な叱り方のヒント
叱るときのルール
子供が小さなときから毎日毎日、親は「お片付けしなさい」「早くお風呂に入りなさい」など日常生活にまつわることを中心に叱る(小言)ことが多いのではないでしょうか。
子供の方は叱られることが続くと、「うるさいなぁ」「また言ってる」という思いが、生まれてきます。
このように子供は、毎日続く小言は嫌いです。
心の底には「親に対する信頼感や安心感があるから」です。
言うことを聞かなかったからといって見捨てられるわけではないことを分かっています。
つまり甘えているのです。
しかし、たとえ聞き流されても、子供に対して「良いことと悪いことの区別」を判断することを学ばせる必要があります。
問題は「何をどう伝えるか」です。
単に毎日小言を言うのではなく、それがなぜ社会でやってはいけないことなのかを、少しずつ理解させる必要があります。
前述の通り、叱り過ぎには要注意です。子供が萎縮してしまうほど怒鳴りつけたり、「あなたのせいで恥ずかしい思いをした」などと責めたり、長々といつまでも叱るのは良くありません。
このような叱り方は、子供の自尊心を傷つけ、いつしか「誰からも相手にされない存在なんだ」と考えるようになってしまいます。
すると、思春期や大人になってから、失敗や挫折など壁にぶち当たったときに自信を失いやすく、なかなか前に進むことができなくなってしまう可能性もあります。 ※2
褒めることで愛情確認
子供は大好きな両親に褒められたとき「ママ(パパ)は自分を愛してくれている」と感じています。大人であっても「ママのご飯はいつも美味しいね」と褒められると嬉しくなり、子供からの愛情を感じますよね。
子供の場合、褒められたことを大人以上に素直に受け止め、親の期待する行動を学び、人の役に立つことを嬉しいと感じ、自分の存在と愛情を実感・確認しています。
「愛されている」と実感している子供は、情緒も安定していて困難に立ち向かうことができるようになります。また、攻撃的になりにくく、問題や周りの人を受け入れることができるので大きく成長できます。
子供は、できた!という成功体験を繰り返し積み重ねていくことで自信がつき、この次も頑張るぞという意欲が生まれます。
ここで大事なのは子供の自立と社会性を育むような褒め方をすることです。
甘やかす、おだてることではありませんし、してほしいことがあるから先に褒めるということとは違います。
自然な成り行きで、できたこと・頑張ったことや子供の良いところに対して具体的な言葉で褒めてあげましょう。
ちょっとしたことでもいいのです。
良い行いを大げさに褒めてあげることで、人への気遣い、喜んでもらえる方法を学んでいくことができます。
「褒める」ことができていると、してはいけないことをして叱られたときに理由を理解しやすくもなるのです。※1、2、12
※12 文部科学省 家庭教育手帳 乳幼児編 2.しつけ
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/04042001/a-03.pdf
2019年5月30日閲覧
※ 1 岩立京子 しつけ 2010年2月発行 日本放送出版協会
※ 2 北条博厚 6歳までの子育てに悩んだら読む本 2015年5月 株式会社 あさ出版
まとめ
近年は、世の中の移り変わりが激しく、情報があふれ、価値観も多様化している時代です。現代は何を信じて育児をすれば良いのか、混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし「しつけ」のやり方は時代とともに変わっても、その根底にあるものは変わりません。
親自身の軸がぶれることなく、愛情一杯で子供たちと接することで、子供は立派に自立し、社会の中で上手に生きていく力を身に付けることができるのではないでしょうか。