いじめっ子が「いじめをする時の心理」とは?我が子をいじめっ子にさせない子育てのコツ
「いじめ」と聞くと、一般的には「いじめられた側」を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、冷静に考えてみると、いじめられっ子がいるということは、必ずいじめっ子(加害者)がいます。
いじめは、双方に遺恨を残す行為です。
我が子がいじめっ子やいじめられっ子にならないよう、親は子供たちの「いじめの世界」を知ることが必要です。
そしてどちらの立場にもならないよう、子供を導いていくことが必要なのです。
目次
- 「いじめ」とは、いじめの定義ってあるの?
- いじめの定義
- いじめの判断基準
- いじめっ子といじめられっ子の関係
- 双方の人間関係
- いじめっ子の特徴、いじめられっ子の特徴
- どうして「いじめ」をしてしまうのか
- いじめっ子の心理状態
- いじめに「加担する」子供の心理状態
- いじめっ子にならない(させない)ために
- いじめっ子になる理由には、親の責任もある
- 我が子をいじめっ子にしないためにできること
- まとめ
「いじめ」とは、いじめの定義ってあるの?
いじめの定義
「いじめ」は学校で起こることが多いため、これを管轄しているのは文部科学省ですが、これが社会問題となり始めた昭和61年には、いじめを次のように定義していました。
- 自分より弱い者に対して一方的に
- 身体的・心理的な攻撃を継続的に加え
- 相手が深刻な苦痛を感じているもの
- 学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。
なお、起こった場所は学校の内外を問わない※1
しかしその後、いじめの方法や深刻さが変わるたびに調査を行い、定義を改正してきました。
平成25年度からは次のように定義されました(一部を分かりやすく改変)。
「(いじめを受ける)児童生徒と同じ学校に在籍するなど、その児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う、心理的又は物理的な 影響を与える行為であり、インターネットを通じて行われるものも含む。これにより、いじめの対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、いじめが起こった場所は学校の内外を問わない。「いじめ」の中には、犯罪行為として早期に警察に相談すべきものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるなど直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては、教育的な配慮や被害者の意向に配慮したうえで、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要である。」※1、2
これは、文部科学省から学校の教師などに向けて書かれていますので、「対応を取ることが必要」となっています。
いじめの被害者、あるいはその保護者の立場では、最後を「対応が取られるべき行為である」などと読み変えると良いでしょう。
いじめの判断基準
そして、いじめの行動パターンには主に6つの行動があるとされています。
- 悪口や相手が困るような噂を流す、SNSなどによりターゲットを誹謗中傷する
- 脅したり暴力を振るったりして金銭などを強要する
- 道徳心よりも自分への損得勘定を基準に行う(ストレスなどのはけ口にする)
- 仲良しグループやクラスの中などで特定の子をターゲットにしても、「ふざけているだけ」と、いじめの意識がない
- 自分よりも弱い立場にある相手を探して攻撃する
- 昔から「あざ笑う」「いたぶる」などとされてきた行為・言葉
主にこのような行為が、単体あるいは複雑に絡み合って「いじめ」は起きているといえるでしょう。 ※1、2、3、4
これらの問題行動の1つ1つを、人権侵害になる、犯罪行為である、憎しみや妬みをぶつける「人として醜い行為」などと整理し、被害者が心身ともに深く傷つく行為であると、大人も子供も理解するべきではないでしょうか。 ※3
※1 文部科学省 いじめの問題に対する施策 いじめの定義 / 2019年8月28日閲覧
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/26/1400030_003.pdf
※2 文部科学省 いじめの問題に対する施策 いじめとは何か? / 2019年8月28日閲覧
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/26/1400030_004.pdf
※3 清永賢二(著) いじめの深層心理を科学する 2013年8月30発行 株式会社ミネルバ書房
※4 加野芳正(著) なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか? 2011年9月15 株式会社日本図書センター
いじめっ子といじめられっ子の関係
双方の人間関係
ここで、いじめっ子といじめられっ子の関係性をみてみましょう。
日本での双方の関係は、同学年が多く、特に同じクラス内での発生が8割近くにのぼります。そして、男子は男子、女子は女子といったように、同じ性別の子をターゲットにする傾向があります。
仲間外れや無視などの精神的ダメージを与える行為が多く、同級生という関係性からか双方の立場が逆転することもあります。
一方、ヨーロッパ諸国では、自分よりも年下の子がターゲットになることが多く、また、男子が女子をいじめるという傾向が強いようです。身体的暴力が多く、強い者から弱い者へと「力の差」が歴然となるいじめが多く見られます。
このように、日本と他国ではいじめの気質が違うことがわかります。
日本のいじめ問題でもう1つ注目したいのは、近年のいじめの形が昔でいう古典的な「弱い者いじめ」とは大きく変化していることです。その特徴とは
- 1人または小グループを大集団で攻撃する
- 強弱ではなく、平均的な集団から外れた特性を持つことが理由となる
- 仲良しであっても、突然に理由なくいじめが始まるためターゲットが誰になるかわからない
- 相手の反発がなければ非人道的残酷さを増し、遊び感覚や快楽性を持ち継続的になる
などが挙げられます。 ※4、5、6
いじめっ子の特徴、いじめられっ子の特徴
では、いじめっ子にはどのような特徴があるのでしょうか。
一般的には
- 基本的に活発でおしゃべり
- どちらかというと落ち着きがなく、いたずら好き
- 生活態度がだらしなく、行動が雑で無神経なところがある
- 家庭での不満を抱えている
- キレやすい子、わがままな子
こうした特徴のある子がいじめっ子になる傾向にあるようです。
そして近年のいじめっ子(特にリーダー核になる子)は
- 成績は優秀だが、人望が薄い
- 行動力があり、ずる賢い
- 大人や教師の前では良い子
- イライラして常に何かに不満を持っている
- 人の痛みや気持ちを理解できない
このようなタイプが増えており、従来のリーダータイプの子を裏で操り、自らは手を加えないという知能犯的な要素を持っているようです。
こうした変化の結果、いじめの陰湿化が増したと考えられます。
次にいじめられっ子の特徴をみてみましょう。
- 弱々しくビクビクしやすい
- 暗い雰囲気で、意見をはっきり言えない
- 身なりや生活態度が汚らしい(又は不潔)
- 調子者で生意気、協調性がない
など、周囲から反感や違和感を持たれて攻撃されてしまうことがあるようです。
また容貌や体格への妬みや反発から、ターゲットになることもあります。例えば、成績が良い、異性に好かれる、背が高いなどに対する妬みや、逆に、太っている、目つきが悪いなど、相手を排除したいという思いからいじめのターゲットになっていることも少なくありません。※4、7
※5 奈良県教育大学いじめ問題プロジェクト いじめ問題解決への教育的支援 いじめ問題に関する基本的認識 日本のいじめの特徴 / 2019年8月28日閲覧
http://www.nara-edu.ac.jp/CERT/April07/html/chapter1/03.html
※6 筑波大学リポジトリ 「いじめっ子」と「いじめられっ子」の社会的地位とパーソナリティ特性の比較 / 2019年8月28日閲覧
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=24266&item_no=1&page_id=13&block_id=83
※7 現代的いじめについての社会心理学的考察 塩谷 治彦 / 2019年8月28日閲覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hokkaidoshakai1988/10/0/10_0_132/_pdf
※4 加野芳正(著) なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか? 2011年9月15 株式会社日本図書センター
どうして「いじめ」をしてしまうのか
いじめっ子の心理状態
ここまで、いじめっ子の特徴をみてきましたが、ではなぜ「いじめ」として行動に出てしまうのか、いじめっ子の心理状態を見ていきましょう。
まず、いじめをする子は心が満たされず何かが欠けているため、つまらない日常を笑いとばしスカッとさせたいためにいじめをします。
いじめを面白いと思っているのです。ターゲットに嫌がらせをしたとき、困ったり悲しんだりする姿を見て大勢で笑い、つまらない日常を楽しく過ごせればいいと思っているようです。
人の痛みや気持ちを想像することができず、自分の気持ちが最優先で、暴力はいけないという意識が薄いため、「ふざけているだけ」「遊び」という気持ちにしかなりません。
それがエスカレートしていくと、次は金銭の要求など犯罪に直結する事態へと発展します。
金銭要求の成功体験をしてしまうと、相手が自分達の言いなりなることに快感を覚え、どこまで絞りとれるかというゲーム感覚で要求を続けてしまいます。
そして、近年では塾通いや習い事など成績重視という環境からか、子供が抱えるストレスも増加しています。
そんなストレスのはけ口としていじめに参加するケースもあります。
大勢の中の1人という「自分だけではない」という意識が罪の重さを軽減させてしまうのです。
多大なストレスや欲求不満の状態の子供達がとる、間違った不満解消法がいじめなのです。
また、自分に自信が持てない子が周りの評価を上げ賞賛してもらうために、自分よりも弱い立場の子をターゲットにして攻撃し、「自分は強い」という実感と仲間の評価を得ようといじめをする場合もあります。
そして、家庭で虐待を受けていた子や、かつていじめを受けていた子が、復讐心や弱い自分ではないということを確認するために、自分よりも弱い立場の子をいじめることもあります。
このように、いじめの連鎖は続いてしまうのです。
いじめに「加担する」子供の心理状態
では、いじめに加担してしまう子供の心理状態はどうでしょうか。
いじめに加わった子の気持ちは、大きく分けて3つあるようです。
1.かわいそう、嫌な気持ちになった
2.主犯格の「あの子がいじめられる理由」を信じ、いじめられて当然と思う
3.被害者の気持ちを考えると苦しくなるから、あえて考えないようにする
などです。
そして、この3つに共通する心理状態は自分がいつターゲットにされるか分からないから、自分を守るためにいじめの加害者側にまわるというものです。
このように、現在のいじめは被害者以外のほぼ全員が加害者となり得るのです。
被害者を「かわいそう」「いじめはいけないこと」と感じる子供がいる一方で、「みんながしているから」といじめの問題を正確に捉えられない子や、「やれと命令されたから」と責任は自分にはないと思っている子もいます。
このような子供たちは個人ではできないような残酷な行動でも、「集団ならば」と平気で行ってしまうようになり、自分のストレスを発散していきます。
赤信号、皆で渡れば怖くない、の心理と同じなのです。 ※8
※8 原田正文(著) 友だちをいじめる子供の心がわかる本 発行者 野間佐知子 2008年5月発行 株式会社講談社
いじめっ子にならない(させない)ために
いじめっ子になる理由には、親の責任もある
いじめに関わる子供達は、心の奥底にとても大きな恐怖と不安を抱き、絶望的な箱の中で苦しくいきづまった日々を送っているのかもしれません。
その原因は、私たち大人が創り上げてきた現代社会にあるといえます。
いじめが深刻化・複雑化していく要因には、核家族化が進み人と人との触れ合いが希薄している現状や、便利になり過ぎた世の中が関係しているかもしれません。
では、我が子がいじめをしない(関わらない)ようにするために、親や大人たちはどうすればよいのでしょうか。
まずは、大人が子供の模範となる言動をすること。
子供は大人の行動・言動を見ています。
例えば、大人が風評被害など他者を差別するような行動をとれば、その行為は子供達にも伝染します。
また、困っている人や悪さをしている子供を、見て見ぬふりをする大人が増えていています。
他人のしていることは自分に被害がなければ関係ないという風潮の社会が、子供達にも伝わっているのです。
さらに、大人の中には暴力や暴言を肯定する大人もいます。
子供に対する、あるいは子供の前での暴力・暴言は、子供が大人の真似をする原因になります。
さらに近年増えているのが、教育熱心すぎるあまり親の価値観をおしつけたり、子供が求めてはいない愛情を注ぎ愛着障害や行為障害を引き起こしたりするケースです。
我が子をいじめっ子にしないためにできること
これらのことを踏まえたうえで、親子でできる「いじめをしない力」を身に付けるとはどのようなことなのでしょうか。
ここからは、大きく3つのステップで考えてみます。
まず一つ目のステップ、「いじめをしない力」を養うために親がとる行動です。
1. 我が子の個性や特性を理解し、過剰な期待をしない
2. 家族の1人として役割を与え、それができると期待する
3. 教師や我が子の友達を批判しない
4. 学校活動や意思決定に進んで参加する
5. 愛情を与え、社会のルールの徹底指導の原点に返り、心理学的な目線だけで子供に対処しない
これらがしっかり出来たら、二つ目のステップに進みます。
子供への「いじめをしない心」を養うステップです。
6. 子供の語彙を増やし、言語力を高める(絵本などの読み聞かせ、読書)
7. 自分自身を理解する力を養う(子供自身に、自分の長所や短所、得手不得手などを言語化させる)
8. 気持ちを言葉で表す訓練で、語彙力を強化する(例えば「怒ると顔が熱くなる」「悲しいと心臓がキュンとなる」など、感情による身体の変化を言葉にする練習をして、自己コントロールを習得していく)
9. 自己決定力を養う(自己理解をさらに強くして、小さなことでも自分で決める場と十分に考える時間を与える)とともに、社会のルールやマナーなどを学ばせ、適切な知識を元にした判断力も強化する。
10. 将来に期待する力をつける(偉人伝などから「自分が将来どうなりたいのか」を考えさせ、そのためには何が必要なのか、5年後10年後の計画を立てる)
11. 問題に気づき解決する力を身に付ける(モノを欲しがる理由、意地悪をする理由、意地悪をされた相手の子の気持ち、我慢する方法などを、日頃から考えるようにさせる)
これらの力が十分に付いたら、次は子供が「周りの人と上手に付き合う」ことを学ぶステップへ進みます。
12. 話し手に注目する練習、合いの手を入れる練習、聞いた話を別の言葉で表現するためにじっくりと考える練習をする(話している相手の目を見るなど)
すると人の話をきちんと理解しながら聴く力が付いてきます。
13. 新聞やニュースから「事実」と「意見」を聴き分けて書き出す練習をする
14. テレビや映画などから、登場人物の気持ちを読み解く練習をする(相手の表情や態度などで気持ちを理解する力を付ける)
お気づきの方もいるかもしれませんが、上記の6~11は人としての基本的な土台を作る過程、12~14はコミュニケーション能力を身に付ける練習です。
これらがクリアできたら、いじめない力と心が育つはずです。
簡単なことではないですが、根気よく親子で実践してみて下さい。※8、9、10
※8 原田正文(監) 友だちをいじめる子供の心がわかる本 2008年5月発行 株式会社講談社
※9 品川祐香(著) いじめない力、いじめられない力 2014年7月31日 株式会社岩崎書店
※10 岸田雪子(著) いじめで死なせない子供の命を救う大人の気づきと言葉 2018年6月15日 株式会社新潮社
まとめ
一向に後を絶たない「いじめ」問題。
近年では「いじめ」の形式が様変わりしていることも相まって、とても大きな社会問題となっています。
いじめの根絶は大変な困難を伴いますが、一人ひとりが「いじめはダメ」という意識を強く持ち、いじめそのものを跳ね返す「力」を身に付けることができれば、いじめは減っていくかもしれません。
我が子がいじめっ子にならないよう、親はその「力」を教えていく必要があるのです。