人がもつ強力な壁?セラミドの秘密に迫る!

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近年、セラミドという名前が一般にも広まりつつあります。
セラミドはスフィンゴ脂質とよばれる脂質の一つですが、この脂質が発見されたのは、19世紀の後半。
しかし、日本で人の健康との関係についての研究が盛んになってきたのは、つい最近のことなのです。
私たちの体の中で、セラミドはどのような働きをしているのでしょうか。
その秘密に迫ります。

目次

  1. セラミドとは何か
    • セラミドとは
    • 細胞とセラミドの関係
  2. セラミドは人にとって大事な脂質
    • 人の体にある脂質
    • 脂質の大事な働き
    • 過不足注意?脂質の摂取量
  3. セラミドを上手に摂取するには
    • 植物から摂る
    • 動物から摂る
    • セラミドの上手な摂り方
    • セラミドと一緒に食べ過ぎない方が良い食物
  4. まとめ

セラミドとは何か

セラミドとは

私たちの体には、たくさんの「脂質」が存在しています。
「脂質」から「脂肪」を連想すると、体に溜まってほしくないもの、ダイエットの敵、などのイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし「脂質」という成分は、私たちの体を作り、力を蓄え、いつまでも元気に生きていくために必要な成分です。
脂質には、大きく分けて3つの働きがあります。

  1.  一つ一つの細胞を区切る細胞膜に存在し、細胞を守るバリアーの役割がある
  2.  脂質は、細胞内や細胞外に存在し「情報を伝達する物質」をつくり出す役割がある
  3.  脂肪細胞に存在する脂質は、必要に応じてエネルギーへと変換される

このようにさまざまな働きを持つ脂質の中に、スフィンゴ脂質と呼ばれるものがあり、スフィンゴ脂質の中で骨格および細胞膜成分となるのが、セラミドです。 ※1
スフィンゴ脂質の研究は、1800年代後半から始まっています。
1884年にドイツの医師J.L.W.Thudichumが、人の脳の細胞から全く未知の脂質を発見しました。
現在ではこの脂質は複数の種類があることが分かっていますが、当時はまだ詳細なことが分からず、Thudichum医師はこの脂質に「スフィンゴ脂質」という名前を付けました。
その由来は、エジプトにあるスフィンクス
スフィンクスには、「スフィンクスの問いかけ」という伝説があります。
自分の前を行きかう通行人に「朝は四脚、昼は二脚、夜は三脚で歩く動物は何か」という問いかけをし、答えられなかった通行人を殺していた、というものです。
Thudichum医師は、自身が発見した未知の脂質に対し、スフィンクスの問いかけにちなんで「この物質は一体何か」という意味を込めて、「スフィンゴ脂質」と命名したと言われています。※1
セラミドは、スフィンゴ脂質を構成する重要な要素ですが、私たちの体の中では主に、細胞の生体膜成分として存在しています


前述の通り、脂質には大きく3つの働きがあります。
セラミドも脂質の一種ですから、やはり大切な働きがあります。
セラミドの主な機能は、次の通りです。

  • スフィンゴ脂質の骨格として、あるいは細胞膜の構成成分などとして、細胞そのものを形作るという機能
  •  細胞の増殖や分化をコントロールしたり、古くなった細胞のアポトーシス(細胞死)をコントロールしたりする機能
    ※1

 

細胞とセラミドの関係

セラミドを含むスフィンゴ脂質は細胞を形作る成分ですので、細胞を持つ生物であればスフィンゴ脂質を含んでいます。
そして糖などと反応することで、スフィンゴ糖脂質やスフィンゴエミリンと呼ばれる物質に変換されます。
これらの物質のほとんどは、それぞれの細胞の表面に、外側を向いた形で存在しています。
脂質と反応する糖の多様性により、400種類以上のスフィンゴ糖脂質が存在するといわれています。
スフィンゴ糖脂質の中には、「グリコシルセラミド」と「ガラクトシルセラミド」と呼ばれる物質があります。
このうち、グリコシルセラミドは、人体の全ての細胞や組織に存在しています
一方のガラクトシルセラミドは、脳や腎臓など一部の臓器に特異的に存在しています。※1
ここまで、セラミドの他にもいくつかの脂質の名称を挙げてきましたが、これらは各々バラバラに存在するのではなく、例えば細胞膜に存在するスフィンゴ脂質から、特定の酵素によってセラミドが遊離されるという反応があります。
また、セラミド自体が代謝などの反応をくり返し起こすことで、スフィンゴ脂質へと変換されます。
こうした目には見えないけれど、複雑かつ人の体を守る反応が、私たちの体の中で繰り返し起こっているのです。
では、私たちはこれらの物質を、どのように体の中に取り込んでいるのでしょうか。
その答えは、食物です。
セラミドには、動物型と植物型のセラミドがあり、多くの生物にセラミドが存在しています。
2000年代初めごろに日本人が行った研究により、日常的な食事からは、1日あたり20~70㎎程度のグリコシルセラミドを摂取していると考えられています。※1

※1 セラミド研究会編 セラミド―基礎と応用― ここまできたセラミド研究最前線 食品化学新聞社  2011年10月

セラミドは人にとって大事な脂質

人の体にある脂質

私たちの体の中あるたくさんの脂質。
例えば、健康診断の結果でよく目にする「コレステロール」も、脂質です。
また、前述の通り、セラミドやスフィンゴ脂質は細胞膜に存在していますが、細胞膜を形作るものとして「リン脂質」と呼ばれる脂質もあります。
さらに血液の中には、タンパク質とコレステロールや中性脂肪が結合した「リポたんぱく」と呼ばれるものがあります。
これらは全て脂質の一種であり、体の中や一つ一つの細胞には非常にたくさんの種類の脂質があることが分かっています。
細胞一つをとっても、実に500種類以上の脂質が存在することが分かっています。※1
では、人の体の中で、セラミドが多く存在する細胞は何でしょうか。
セラミドがもっとも多いとされるのが、皮膚の角質層と呼ばれる細胞です。
私たちの皮膚には、皮膚より内側の「体内」と、皮膚の外側である「外界」とを区切る役目があります。
皮膚は「人の体の中でもっとも大きな臓器」と称されることがあります。
臓器と聞くと、つい内臓(皮膚の内側にあるもの)を想像しがちですが、皮膚も立派な「体を構成する臓器」なのです。
ここに、体の中の大部分のセラミドが存在していることになります。※2、3

脂質の大事な働き

細胞を形作る細胞膜には、たくさんの種類の脂質が存在します。ここでは、細胞と細胞膜との関係を考えてみます。
細胞は、レンガを一つ一つ積み上げるように、それぞれの細胞が独立した形で存在しています。
この細胞一つ一つを包み込むようにしてぐるりと包囲しているのが、細胞膜です。
細胞膜を構成する主な成分としてリン脂質がありますが、細胞同士はこれだけではキレイに整列することができません。
積み上げたレンガだけでは不安定で、ちょっとした刺激で崩れてしまうのと同じです。
この積み上げたレンガを固定し、丈夫な壁、構造物に仕上げるのがコンクリートですが、細胞同士を整列させて固定し、一つの臓器や組織をつくり出すために必要なコンクリートの役割をしているのが、コレステロールです。※2、3

過不足注意?脂質の摂取量

ところで、私たち日本人は、一体どれくらいの脂質を摂取しているのでしょうか。
厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、日本人は1日の摂取エネルギー量のうち、およそ20~30%を脂質から摂ることが推奨されています。※4
つまり、1日の摂取カロリーの目標値が1600kcalの人は、そのうちのおよそ25%、400kcal程度を脂質から摂ることになります。
脂質は1gあたり9kcalで換算しますので、グラム数に直すとおよそ44g程度です。
結構、多いような気がしませんか。
しかし、脂質=肉の脂身やサラダ油など、明らかに「油(オイル)」と分かるものだけではありません
脂質は、さまざまな食品の中に含まれており、例えばサバ100g(半身1匹程度)を食べると、そこには15g程度の脂質が含まれていることになります。
食品に含まれる脂質には、たくさんの種類がありますが、脂質を極端に少なくしてしまうと、細胞や体が上手く構成されなくなり、細胞間での情報伝達が行われなくなり、体を動かすことが出来なくなってきます
何だか、一気に老け込んでしまう気がしませんか。
では逆に、脂質が多過ぎるとどうなるのでしょうか。
単純に考えれば、細胞や体は構成されるものの、情報伝達やエネルギーに利用された後の余分な脂肪は、どんどん体の中に溜まっていきます。
不要な脂質を溜め過ぎても、レンガをキレイに積み上げた壁にはなりません。
レンガ自体が不揃いだったり、隙間を埋めるコンクリートの部分が不揃いになってきます。
これでは、健康で元気な体とは、言い難くなってしまいます。
何事にも「ほどほど」があるのです。

※4 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版) 脂質/2019年5月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042631.pdf
※1 セラミド研究会編 セラミド―基礎と応用― ここまできたセラミド研究最前線 食品化学新聞社 2011年10月
※2 井上浩義著 からだによいオイル健康と美容をかなえる油の教科書 慶応義塾大学出版 2016年5月発行 
※3 山田豊文著 脳を壊す「油」、育てる「油」トランス脂肪酸から子供を守る 共栄書房 2019年2月発行

セラミドを上手に摂取するには

植物から摂る

過去に、植物性食物からのセラミドの摂取量を調べる、という実験が行われました。
そこでは、日本人の標準的な食事(米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、果物等)をピューレ状にし、体の中で消化される状態を作り出して観察し、セラミドの量を測定するという実験が行われました。
結果的には、ごくわずかな量のセラミドしか抽出できなかったのだそうです。
一方で、植物から抽出されたセラミドを試験用の食材(ピューレ状にしたもの)に添加し、体の中で消化される状態を作り出して観察すると、添加したセラミドとほぼ同量のセラミドが回収されました。
つまり、食事の中に含まれるセラミドは食物の細胞膜を構成しているため、人の体では消化されにくく、一部は小腸などから吸収されますが、多くは排出されていることになります。 ※1、5
前述の通り、私たちの日常的な食事からは20~70㎎程度のグリコシルセラミドを摂取していると考えられていますが、一方でセラミドには「1日これだけ摂るように」という定義はありませんので、これが健康維持のために多いのか少ないのかは、まだ研究段階にあるといえます。
これらを総合的に考えるならば、野菜や果物など植物性の食物を意識して多めに摂るようにすると、比較的たくさんのセラミドを摂取できるのではないでしょうか。

動物から摂る

動物性の食物には、大きく分けて肉類と魚介類がありますが、中でも海産物である魚介類は、陸上の生物とは少し違う化学構造を有する物質が多いことが知られています。
牛の脳など陸上生物からもセラミド(スフィンゴ脂質)を摂ることはできますが、近年注目を集めつつある海産物にもスフィンゴ脂質が含まれます。
例えば、スケトウダラやマイワシ、アユ、マコガレイなどの脳や肝臓に、スフィンゴ脂質と関連のあるスフィンゴエミリンが多く含まれていることが分かっています。
また、マダコ、サザエ、バカガイ、アサリ、ハマグリなどにも、セラミド化合物の一つであるセラミドアミノエチルホスホン酸と呼ばれる物質が含まれていることが分かっています。
ただし、魚の場合は脳や内臓に、軟体類やサザエなどは加工する際に破棄される内臓部分に、セラミドに関係する物質が多く含まれています※1、5
そのため、魚介類でも丸ごと食べるような場合を除くと、たくさんのセラミドを一度に摂取することは難しいのかもしれません。

セラミドの上手な摂り方

米や小麦、サツマイモやヤマイモ、卵や乳製品にも、セラミド(スフィンゴ脂質)は含まれていますが、これらは同時に、炭水化物やその他の脂質を多く含みます。
日本人の主食や主菜となる食物であるため、主食だけに偏らないよう、肉や魚はもちろん、野菜など、セラミドを含めたさまざまな栄養素とのバランスを考えて摂るのが良いでしょう。
また、糖と結合した状態のグルコセラミド(植物性セラミドの一つ)は、単純な加熱だけではなく、焼く、揚げるなどの加工をしても、比較的安定しているとされていますので、加熱調理をしてもセラミドを摂ることはできます※5

セラミドと一緒に食べ過ぎない方が良い食物

セラミドがどのような食物にどれだけ含まれているのか、人の体に取り込まれたセラミド(あるいはこれに関連する脂質)がどのように吸収、代謝されているのかなど、現在もさまざまな研究が行われています
現在のところ、食物からのセラミド摂取が特に推奨されているということはなく、1日あたりの摂取推奨量が決まっているということではありません。
しかし、セラミドそのものが脂質であること、加熱調理の際に脂質(油、オイル)を使う可能性があることなどから、やはり多くの脂質と組み合わせようとすることは、あまり勧められません。
油には、体にとって良い効果をもたらす油と、摂り過ぎてしまうと健康を維持するのが難しくなる油があります。※2、3、4
セラミドは、私たちを健康で元気な体にしてくれる成分ではありますが、セラミド自体も脂質であること、脂質の不足や過剰は健康な体を維持しにくいことを考慮し、「適切な脂質の摂取」を心がけましょう。

※4 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版) 脂質/2019年5月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042631.pdf
※1 セラミド研究会編 セラミド―基礎と応用― ここまできたセラミド研究最前線 食品化学新聞社 2011年10月
※2 井上浩義著 からだによいオイル健康と美容をかなえる油の教科書 慶応義塾大学出版 2016年5月発行 
※3 山田豊文著 脳を壊す「油」、育てる「油」トランス脂肪酸から子供を守る 共栄書房 2019年2月発行
※5 西川研次郎 監修 食品機能性の科学編集委員会 編集 食品機能性の科学 産業技術サービスセンター 2008年4月発行

まとめ

私たちの周りには、たくさんの脂質を含んだ食物がありますが、一言で「脂質」といっても、その種類は非常に多く、人の体に良いものと悪いものがあります。
セラミドは、私たちの元気を支えてくれる脂質であり、今現在もその可能性について多くの研究がなされています。
食生活は、健康の基本。
良い食生活を心がけて、セラミドの元気パワーを取り入れましょう。

ライター
岡部
看護師
埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。
一般向けおよび医療従事者向け書籍
○執筆・編集協力
・看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)  他
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