パワフルな栄養がギュギュっと詰まったカプサイシン

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カプサイシンの栄養成分は、元気な毎日をサポートしてくれる大切な栄養成分です。
健康とは、「病気でなく、虚弱でなく、身体的にも精神的にも社会的にも健全で順応した生活が営めること」と、世界保健機関(WHO)により定義されています。
健康、不健康の境界線をはっきりと区別することは難しいのですが、食べたものからできているこの身体がいつまでも元気でいられるように、少しだけカプサイシンの力を借りてみませんか?

目次

  1. カプサイシンってなに?
    • カプサイシンってなに?
    • カプサイシンを含む食品ってどんなもの?
    • 辛さを計る?スコヴィル値とは
  2. なくてはならないトウガラシ
    • トウガラシの種類
    • 世界で愛されてきたトウガラシ
    • コロンブスはトウガラシをペッパーと名付けた?
  3. カプサイシンはどんなパワーがあるの?
    • カプサイシンは食べるとどうなるの?
    • カプサイシンの1日の摂取量
    • 摂取時に注意すべきこと
  4. まとめ

カプサイシンってなに?

カプサイシンってなに?

カプサイシンとは、天然有機化合物の1つであり、炭素、水素、酵素、窒素から成り立っています
カプサイシノイドとも呼ばれ、トウガラシなどの辛みをもたらす成分です。
カプサイシンは気体になりにくく、熱を加えても成分が壊れにくいという性質を持っているため、加熱処理をしても辛みが残り続けるという特徴があります。
また、水には溶けにくいものの、油やアルコール、酢には溶けやすい性質を持っています。※1、2、3

カプサイシンは、舌から「辛み」などの強い刺激を与える成分です。
カプサイシンは、トウガラシの内部にある白いスポンジ状の組織の中にある「腺」で作られますが、トウガラシにとっての二次的代謝産物です。
二次的代謝産物とは、その植物にとって特徴的な産物(化合物)であり、基本的には自然界で「食べられるのを阻止する」という目的で作られています
例えば、バラの棘や、クリのイガにある針のほか、強い臭みや毒なども、二次的代謝産物に含まれます。
カプサイシンは「辛みや刺激を与える」という特徴を持ち、トウガラシの種子の中に作られることで、トウガラシの実を外敵から守っているのです。※1、2、3

カプサイシンを含む食品ってどんなもの?

カプサイシンを含む代表的な食材は、トウガラシです。
トウガラシはいろいろな変種があることで知られており、皮の色も赤、緑、黄、黒などがあります。
日本の食卓でお馴染みのトウガラシといえば、真っ赤な爪のような形をした「鷹の爪」ではないでしょうか。
トウガラシに分類されるものにはほかにも、香辛料に使われる本鷹、三鷹、八房、ハラペーニョ、スーパーチリ、カイエンペッパー、エスプレットなどがあります。
同じトウガラシでもカプサイシンの含有量はその種類によって異なっており、採れた産地や品種、時期によっても違いがあります。
また、トウガラシの粉末を使用した食品にもカプサイシンは含まれており、具体的にはキムチやカレー、ラー油などに使われています。※1、2、4

辛さを計る?スコヴィル値とは

トウガラシの辛さを目で見えるように、測定値としてあらわしたものを「スコヴィル値」といいます。
スコヴィル値の測定方法は、トウガラシを砂糖水に浸して溶かし、トウガラシの辛さが感じられなくなるまで薄めきった時の希釈倍率を、高速液体クロマトグラフィーとよばれる「有機化合物を分解して分析する方法」で算出します。
単位は「SHU」で表します。
1912年に、ウィルバー・ライアンズ・スコヴィル氏によって開発された測定方法です。
人々がトウガラシを食べ、カプサイシンを味わうようになったことによって、カプサイシンの強度を適切かつ正確に判断することは十分可能であると考えられ、辛さを評価するようになりました。
1912年当時は、乾燥したトウガラシの粉末をアルコールに入れて混ぜた後に、そのアルコール水に砂糖水をいれて混ぜ、その液を被験者の口に投与するという方法で行われていました。
いわばゲームの一種のような扱いでした。
また、被験者の口に投与して判断するため、被験者の味覚が頼りというものであり、かなり不正確な部分がありましたが、現在では測定方法が見直されたため、しっかりと判断することができるようになりました。
スコヴィル値は、カプサイシン以外の辛み成分にも応用することができ、黒コショウやショウガなどに含まれる辛さも、測定することが可能です。
この方法で辛みを計ることができ、辛みを目で見て判断することができるようになったのです。※3

※1 農林水産省 カプサイシンに関する情報 / 2019年1月30日閲覧
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/
※2  trc naturalmedicines Capsicum / 2019年1月30日閲覧
https://naturalmedicines.therapeuticresearch.com/databases/food,-herbs-supplements/professional.aspx?productid=945
※3 ヘザー・アーント・アンダーソン 服部 千佳子 著 2017年8月発行 「食」の図書館 トウガラシの歴史 原書房
※4 佐竹 元吉編著 2016年5月初版1刷発行 おもしろサイエンス 機能性野菜の科学 健康維持・病気予防に働く野菜の力 日刊工業新聞社

なくてはならないトウガラシ

トウガラシの種類

トウガラシは、品種によって辛さが違います
日本国内で流通しているトウガラシは主に、鷹の爪、弥平トウガラシ、島トウガラシ、青唐辛子、福耳トウガラシなどの種類があります。
日本では、トウガラシの実を乾燥させた状態で販売することが多く、加工品としては一味や七味などがあります。

一方、世界のトウガラシに目を向けてみると、トリニダードスコーピオン、ブートジョロキア、プリッキーヌ、インディアンペッパー、ハラペーニュ、セラーノ・デル・ソル、韓国トウガラシ、ゴールドチリ、ハンガリアンブラックなどがあります。
あまり耳慣れない名称かもしれませんが、日本でスナック菓子などに用いられる「ハバネロ」も、トウガラシの一種です。※4
世界のトウガラシ事情を見ると、より「辛み」や「刺激」が強いものが多いようです。
例えば、世界で流通しているトウガラシのスコヴィル値には、次のようなものがあります。

  •  パプリカ(パウダー):100~500SHU
  •  タバスコ(ソース):1,600~5,000SHU
  •  ハラペーニョ(生):2,500~8,000SHU
  •  チリ(パウダー):30,000~50,000 SHU
  •  純カプサイシン:16,000,000SHU

尚、基準値は、トウガラシと同じ仲間に分類される「ピーマン」であり、これを0SHUとします。
純カプサイシン(カプサイシンだけを抽出したもの)は、1,600万SHUと、かなり高い数値となります。※5、6

世界で愛されてきたトウガラシ

トウガラシは、日本のみならず世界の国々で愛されてきました。
特に古代のアメリカ大陸に住む人々は、トウガラシを使わずに料理を完成させることは不可能と考えるほど、別格な存在として扱ってきました。
南北アメリカでは、トウガラシの断片や種子がゴミ捨て場や住居跡、陶器の中などから多数発見されており、スペイン人によって征服される以前から、トウガラシが頻繁に使われていたと考えられています。
また、亡くなった偉人へのお供え物としても、トウガラシが幅広く使用されていたようです。
そもそも南北アメリカをスペイン人が征服した15世紀ごろ、スペインの食文化はトルコの影響を濃く受けており、辛み成分にはショウガや黒コショウが多く使用されていました。
また、メキシコや中南米では、野生のトウガラシが現在でも収穫されています。
これらの大部分は7000年から8000年前に栽培された、5種類のトウガラシから派生したものとされており、チルテピンというトウガラシは、現在我々が食べているトウガラシの元となった、いわばトウガラシの母ともいわれるトウガラシです。※3

トウガラシは、メキシコでは薬味として使われていましたが、南北アメリカに渡った頃から、他の一部の地域では貨幣のような扱いを受けていた植物であったとも考えられています。
これを裏付けるように、メキシコの一部地域では水晶やトルコ石のペンダント、王様の宝物と同じ場所からトウガラシが見つかっています。
このようなことから、トウガラシは薬味、調味料、貨幣とさまざまな形で世界各国から愛され、慕われてきた植物であったということが推測できます。

コロンブスはトウガラシをペッパーと名付けた?

ところで、トウガラシは南米大陸が原産ではありますが、わずか数世紀の間に世界中へ広まった食材です。
そのきっかけを作ったとされている人物の一人が、新大陸を発見したコロンブスです。

スペインの航海士だったコロンブスは、新大陸を発見後、先住民が「辛い食べ物」を食べていることに気付きます。
この辛い食べ物がトウガラシであることを知り、スペインへの輸出を始めました。
また、コロンブスはポルトガルの探検家たちと出会い、彼らがトウガラシに「ペルナンブコ・ペッパー」や「ゴア・ペッパー」と名付けていることを知ります
ここから、コロンブスはトウガラシに対して、ピリッとした辛さのコショウと同じ「ペッパー」という名前を付けたのだと言われています。

尚、当時のヨーロッパでは、大陸からの食材を食べる習慣がなく、トウガラシは主に観賞用として栽培されていたようです。
ただし、スペインでは比較的早い段階から、食材としてのトウガラシが利用され始めました。
その背景には「食材として使える」という、コロンブスの体験があったのかもしれません。
ちょうど同じくらいの頃、現在のブラジルでトウガラシを発見したポルトガル人は、自国の植民地であるインドへ持ち込み、栽培を始めました。
当時のインドでは、香辛料といえば「コショウ」しかなく、そこへ「辛い食材」が入ったことにより、これを香辛料として利用するようになりました。
このようにして現在のような「辛いカレー」へと進化してきたといわれています。※1、2、3

※1 農林水産省 カプサイシンに関する情報 / 2019年1月30日閲覧
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/
※2  trc naturalmedicines Capsicum / 2019年1月30日閲覧
https://naturalmedicines.therapeuticresearch.com/databases/food,-herbs-supplements/professional.aspx?productid=945
※5 J-STAGE トウガラシの辛味と痛みとエネルギー代謝 川端 二功、伏木 亨 / 2019年1月30日閲覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/43/3/43_3_160/_pdf
※6 旬の食材百科 世界のとうがらし/唐辛子/トウガラシ 辛~超激辛編 / 2019年1月30日閲覧
http://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/pepper.htm
※3 ヘザー・アーント・アンダーソン 服部 千佳子 著 2017年8月発行 「食」の図書館 トウガラシの歴史 原書房
※4 佐竹 元吉編著 2016年5月初版1刷発行 おもしろサイエンス 機能性野菜の科学 健康維持・病気予防に働く野菜の力 日刊工業新聞社

カプサイシンはどんなパワーがあるの?

カプサイシンは食べるとどうなるの?

カプサイシンを食べたときに感じる辛さ、痛み、熱を感じるポイントは同じところに存在しているため、カプサイシンを食べるとこの3つの感覚を感じることになります。
英語で辛いものを食べたときにHOT(ホット)と表現されるのも、ここからきているようです。
人の体の中には、「味覚」という感覚があります。
基本五味と呼ばれる味覚には、うま味、甘味、苦み、酸味、塩味の5つの感覚があります。
しかしここには「辛み」は入っていません。
これは、基本五味を感じ取る「受容体」と、「辛み」「熱」「痛み」を感じ取る受容体が、違うものだからです。

「辛み」を感じ取る受容体は、1997 年にデヴィッド・ジュリアス(アメリカの生理学者)らのグループによって発見、公表されました。
現在ではこの受容体のことをTRPV1と呼びます。
TRPV1は、カプサイシンだけではなく、43℃以上の温度刺激や、酸によっても活性化されることが分かっています。
つまり、TRPV1は、「辛み」刺激と「熱」刺激とを同時にキャッチすると、単独の刺激を与えた時よりも強く反応するようになるのです。
例えば、トウガラシが味の決め手となる熱いスープ。
冷めている状態よりも、トウガラシの辛みをより強く感じるのは、このためです。
また、トウガラシをたくさん食べると、舌や口の中だけではなく、色々なところで「痛み」を感じます。
これは、TRPV1が口の中だけではなく、全身の神経細胞にも存在しているため、カプサイシンをキャッチした部位で「痛み」を感じているのです。※1、2、5、6

一方で、TRPV1は一定量のカプサイシンにさらされると、その刺激を感じ取れなくなります
これが「脱感作」という仕組みなのですが、花粉アレルギーの患者さんに少しずつアレルゲンを与えていくと、一定のレベルを超えたところで、アレルギー反応が起きなくなります。
カプサイシンとTRPV1の間にもこの関係性が成り立っているため、カプサイシンを摂り続けると、徐々に「辛み」や「痛み」などの感覚がマヒしてきます
体の中に摂りこまれた後のカプサイシンは、さまざまな生理的な反応を起こす成分でもあります。
つまり、感覚がマヒするほど食べてしまうと、体を元気にするのを通り越し、さまざまな不調を引き起こしてしまうのです。※1、2、6

カプサイシンの1日の摂取量

以前まで、カプサイシンの1日の摂取量の制限はありませんでした。
その理由は、カプサイシンを含む食材の強い辛味に耐えることができず、摂取量を自分で制限できるものであると考えられていたからです。
しかし、カプサイシンを含む調味料の増加や、近年の辛い食品の大食い、早食い競争の人気を背景に、改めてカプサイシンに関するリスク評価が必要となってきました。
2011年には、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)がカプサイシンのリスク評価を行い、1日のカプサイシンの摂取量を「最大5 mg/kg bw※」と推定しました。※6、7

※5㎎/kg bw :体重(bw=Body Weight)1㎏あたり5㎎ という意味です。
つまり体重50㎏の人ならば、5㎎×50㎏ = 250㎎が、1日の最大摂取量となり、それ以上はリスクを伴うことになります。
日本人になじみの深い「鷹の爪」なら、1本あたり1㎎程度のカプサイシンが含まれていますので、1日で250本以上食べると、健康を害する可能性がある、ということです。

摂取時に注意すべきこと

同じ量のカプサイシンであっても人によって感受性や辛さに対する強さが異なるため、1人1人の好みに合わせたうえで調理していくようにしましょう。
特に妊婦や子どもの場合は、十分注意が必要です。
舌の粘膜に接する量が多いほど辛みは強く感じるため細かくしすぎないようにすること、熱ければ熱いほど辛みを強く感じるためほどよく冷ましてから食べることも、調理法の工夫の一つです。
また、乳製品は舌に接触するカプサイシンに吸着して辛みを和らげる作用があるため、ヨーグルトや牛乳、ラッシーなどと一緒に摂取するのも良いでしょう。
さらに近年ではカプサイシンの類縁体で辛みを抑えたカプシエイトやカプサイシンの成分が含まれているサプリメントなども販売されています。
辛みがないという特徴からついつい摂りすぎてしまいますが、1日の摂取量を超えないよう、摂りすぎには十分注意しましょう。※3、4、6

※1 農林水産省 カプサイシンに関する情報 / 2019年1月30日閲覧
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/
※2  trc naturalmedicines Capsicum / 2019年1月30日閲覧
https://naturalmedicines.therapeuticresearch.com/databases/food,-herbs-supplements/professional.aspx?productid=945
※5 J-STAGE トウガラシの辛味とエネルギー代謝 川端 二功、伏木 亨 / 2019年1月30日閲覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/43/3/43_3_160/_pdf
※6 J-STAGE 日本調理科学会誌 Vol. 46,No. 1,1~7(2013) スパイスの化学受容と機能性 川端 二功 / 2019年1月30日閲覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/46/1/46_1/_pdf
※3 ヘザー・アーント・アンダーソン 服部 千佳子 著 2017年8月発行 「食」の図書館 トウガラシの歴史 原書房
※4 佐竹 元吉編著 2016年5月初版1刷発行 おもしろサイエンス 機能性野菜の科学 健康維持・病気予防に働く野菜の力 日刊工業新聞社
※7 麻美 直美 塚原 典子著 2008年4月第1刷発行 好きになる栄養学 講談社

まとめ

トウガラシ(Capsicum)という名前は、ギリシャ語で「かむ」という意味のカプトからきています。
古来より魔除けになると信じられてきたトウガラシには、あのいかにも辛そうな色が、太陽や火を意味し、悪鬼を焼き払うという説や、その辛さから悪霊を追い払うという説があります。
刺激的な食事を楽しみながらカプサイシンを摂取して、元気な身体を作りましょう!

ライター
岡部
看護師
埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。
一般向けおよび医療従事者向け書籍
○執筆・編集協力
・看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)  他
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