1日の栄養をしっかり摂れる完全食(完全栄養食)ってどんなもの?

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完全食や完全栄養食という言葉、聞いたことはありますか?
最近では日本製の完全食(完全栄養食)も登場し、「とっくに知っている」「もう食べている」という方も増えているようです。
でも実際にはどのような食品で、どういう意味で「完全」なのでしょうか。
市販されている完全食(完全栄養食)と、一般的な食との違いを見ていきましょう。

目次

  1. 完全食という言葉知ってる?
    • 言葉の意味するところ
    • ずっと昔から使われていた、完全食という言葉
    • 日本の栄養学創始者がいうところの完全食、完全栄養食
  2. 現代の完全食、完全栄養食とは?
    • 現代の日本人が必要とする栄養素
    • 現代の完全食、完全栄養食
  3. 完全食、完全栄養食が注目された理由
    • とにかく忙しい日本人
    • それでも健康のためにはバランス良く栄養を摂れ、といわれる現実
    • 特定の栄養素をたくさん摂ることと完全食は少し違う
  4. 日常の食事で楽しむ“完全食
    • 人の健康に必要な栄養素を知っておこう
    • 日常の食生活で目指す完全な食事
    • 毎日忙しくてそんなことできない、という方へ
  5. まとめ

完全食という言葉知ってる?

言葉の意味するところ

完全食・完全栄養食というとどのような食べ物を思い浮かべますか?
これは、人にとって必要な1日分の栄養素が含まれた食事のことをあらわし、近年では完全食・完全栄養食を謳う食品も販売されるようになりました。※1
そのため、完全食・完全栄養食という言葉は近年になり作られた言葉のように思えるのですが、実は、新しい言葉ではなく、1920年代には登場していた言葉です。※1

ずっと昔から使われていた、完全食という言葉

完全食という言葉は、医学会の重鎮であった二木謙三氏が1921年に発刊された書物の中で使用しました。
二木謙三氏は健康法を提唱していたのですが、この時には玄米を「人にとっての完全食」とよんでいました。※2
米は精製の段階によって糠と胚芽を残した玄米や、胚芽を残した胚芽精米、胚乳だけを残した精白米などに分けられ、精米率によって栄養成分に違いが出てきます。
表皮にあたる籾殻だけを取り除かれた玄米には、良質なたんぱく質に加え、ビタミンや鉄、食物繊維などが精白米よりも多いという特徴があります。※1
人にとって必要とされる栄養素はかなり昔からわかっていたようで、二木氏の書物の中では、たんぱく質、カルシウムなどの栄養素は人にとって必要であることに加え、プリン体は摂り過ぎてはいけないなどと説かれています。※2
また、当時から牛肉は人が好む食材だったのでしょう。
牛肉を人にとっての完全食にするためには、鍋など野菜と一緒に摂ることなどが推奨されていました。※2

日本の栄養学創始者がいうところの完全食、完全栄養食

その後の1986年には、栄養学者佐伯矩伝という書物が発行されました。
この中で、著者である当時の栄養学者である佐伯芳子は、完全食について記述しています。※1

日本における栄養学という学問は、佐伯芳子の父である、佐伯矩によって創設されました。
そして、佐伯矩氏は1926年から1930年の間に、栄養学に関する書物を発行しています。
佐伯矩氏はみずからの書物の中で、1日分の必要な栄養が含まれた食事のことを完全食としていました。※1、3
佐伯矩の理想的な完全食は、驚くことに玄米でも白米でもなく「七分に搗いた米」でした。※4
確かに、玄米は栄養素が多い反面、未消化物が多くなり、体内での効率はよいとはいえません。
精白米では吸収率はよくなりますが、ビタミン類は減少してしまいます。※1、3
このようなことから佐伯矩氏は七分に搗いた米を完全食としたのかもしれません。※4

※1 佐伯芳子(著) 1986年11月発行  栄養学者佐伯矩伝 玄同社
https://books.rakuten.co.jp/rb/238407/
※2 二木謙三(著) 1921年8月発行 食物と健康 修養団出版部
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/981044
※3 佐伯矩(著) 1926年12月発行 栄養 栄養社
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1016744
(国立国会図書館デジタルコレクションを参照)
※4 佐伯矩(著) 1930年10月発行 栄養之合理化 愛知標準精米普及期成会
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1097026

現代の完全食、完全栄養食とは?

現代の日本人が必要とする栄養素

厚生労働省が発行している日本人の食事摂取基準というものをご存知でしょうか。
これは、日本人の健康保持・増進・生活習慣病の予防のために必要なエネルギーや栄養素の基準量を表したもので、健康増進法に基づいて定められています
日本人の食事摂取基準は、社会状況の変化や研究成果に基づき、おおよそ5年毎に改正され、現在の最新は2020年版です。※5、6
食事摂取基準では、利用者に対し「疾患を有していたり、疾患に関する高いリスクを有していたりする個人及び集団に対して、治療を目的とする場合は、食事摂取基準におけるエネルギー及び栄養素の摂取に関する基本的な考え方を必ず理解した上で、その疾患に関連する治療ガイドライン等の栄養管理指針を用いること」との条件が定められています。
つまり、日本人の食事摂取基準は、基本的には健康な人、現在特に治療などを必要としない人が対象となります。
また、日本人の食事摂取基準は全体で34種類の栄養素について示され、年代別の推定必要量・推奨量・目安量・目標量・耐容上限量の5つの指標が設けられています。※5、6

【推定必要量】※5
性・年齢階級別の日本人の必要量の平均値で、50%の人は必要量を満たすと推定される摂取量

【推奨量】※5
性・年齢階級別の97~98%の人が1日に必要量を満たすと推定される摂取量

【目標量】※5
病気の予防にために、日本人が当面の目標とすべき摂取量

【目安量】※5
推定必要量や推奨量を算定するのに科学的根拠が充分に得られない場合の、性・年齢階級別の良好な栄養状態を維持するのに充分な摂取量

【耐容上限量】※5
健康にリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限で、超えてしまうと過剰摂取によるリスクが高まるとされる摂取量

日本の伝統的な食文化である和食は栄養バランスに優れ、健康的な食生活でもあることから世界遺産にも登録されました。
しかし食の洋風化や外食などが増え、日常的に一汁三菜といった献立を口にする機会は減少しつつあります。
それに伴い、栄養バランスは乱れ、体調不良を訴える人も現れるようになってしまいました。※5、6
それでは、体内で不足しやすいため必要とされている栄養素と、過剰摂取が懸念されている栄養素をみてみましょう。

【必要な栄養素】※5、6
・たんぱく質
・脂質(脂肪):n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸
・炭水化物、食物繊維
・ビタミン:ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC
・ミネラル:カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン

【摂り過ぎ注意な栄養素】※5、6
・脂質、飽和脂肪酸、コレステロール
・糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないものに限る)
・ナトリウム

近年登場した完全食・完全栄養食は一般的に、1日に必要とするさまざまな栄養素の1/3を含むものとして販売されています。
実際にどのような栄養素がどの程度含有されているのか、しっかりと確認してみましょう。

現代の完全食、完全栄養食

完全食、完全栄養食を購入したことがある方や、食べたことがあるという方でも、公的な用語、学術用語などには「栄養食」や「完全栄養食」は無いということをご存知でしょうか。
また、このような食品には欧米から入ってくるものと、日本製のものがあり、含まれている栄養素は商品によって異なります※5、6
したがって、日本人の健康を考えるなら、日本の基準に合ったものを選ぶ方がよいのかもしれません。
また、人によって1日に必要な栄養素というものは違うので、カロリーオーバーとなることもあるため頼り過ぎには注意する必要があります。
安易に「完全食だけ食べておけば大丈夫」と、過信するのはやめましょう。※5、6

※5 中村丁次監修 2017年2月発行 栄養の基本がわかる図解事典 成美堂出版
http://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415327433/
※6 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html

完全食、完全栄養食が注目された理由

とにかく忙しい日本人

内閣府によると、2000年頃が境とはなっていますが、依然として「日本人は働き過ぎでは?」という状況が見て取れます。
内閣府が公表している「平成29年度 年次経済財政報告」によると、日本の20~54歳の結婚している男性では、家事や育児に費やす時間の平均は、平日で 1時間以内となっています。※7
これは、欧州主要各国に比べると半分程度の時間です。
近年では、男性の育児休業取得などの割合は増え、家族と過ごす休日の時間や家事の時間帯を増やす傾向はみられていますが、まだまだ男性が家庭活動に費やしている時間は長いとは言えない状態にあります。※7

また、厚生労働省の国民健康・調査(平成30年版)では、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が週5日以下と回答した人は、その理由として「時間が無い」と「手間がかかる」が多くなっています
また、食生活の改善の意思では「関心はあるが改善するつもりはない」と回答した割合が最も高く、こちらも時間がないことや、面倒といった理由があげられました。※8

それでも健康のためにはバランス良く栄養を摂れ、といわれる現実

健康的な食生活を送りたいと思っているものの、忙しさから食にかける時間を作り出せない現代。
しかし2000年以降、厚生労働省・文部科学省・農林水産省が一体となり、食生活を見直そうと食生活指針を策定、推進しています。
2016年6月には食生活指針は改訂され、10の行動目標が掲げられています。※9

1. 食事を楽しみましょう
2. 1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを
3. 適度な運動とバランスのよい食事で、適正体重の維持を
4. 主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを
5. ごはんなどの穀類をしっかりと
6. 野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて
7. 食塩は控えめに、脂肪は質と量を考えて
8. 日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を
9. 食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を
10. 「食」に関する理解を深め、食生活を見直してみましょう

忙しい、時間がないと悲鳴をあげてしまいそうな毎日の中で、このような10項目すべてにおいて努力ができる人はどれくらいいるのでしょうか。※9

特定の栄養素をたくさん摂ることと完全食は少し違う

完全食は、食に対して時間をかけることができないような現代において、注目を集めつつあります。
すでに、スーパーフード健康食品サプリメントといった言葉は知っている方が多いのではないでしょうか。※10、11
スーパーフードの定義は、栄養バランスに優れ、一般的な食品より栄養価が高い食品であること、または、ある一部の栄養・健康成分が突出して多く含まれる食品であることとなっています。※10
健康食品やサプリメントの明確な定義はありませんが、健康の保全増進に資する食品を健康食品、特定成分が凝縮された錠剤やカプセル状の製品をサプリメントとよんでいます。※11

完全食・完全栄養食には明確な定義がありませんので、どのような栄養素がどの程度含まれるものなのか、自分の目で確認してみることが必要です。
現在、日本の市場に出ている完全食・完全栄養食は、粉末タイプ、液体タイプ、グミタイプ、パンタイプ、乾燥麺タイプなどがあります。

※7 内閣府 平成29年度 年次経済財政報告 第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響/2020年11月30日閲覧
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je17/pdf/p02014.pdf
※8 厚生労働省 令和元年「国民健康・栄養調査」の結果/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14156.html
※9 厚生労働省 食生活指針(平成28年6月)/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000129379.pdf
※10 日本スーパーフード協会 スーパーフードとは/2020年11月30日閲覧
https://www.superfoods.or.jp/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%A8%E3%81%AF-2/
※11 厚生労働省 多用な健康食品/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/pamph_healthfood_d.pdf

日常の食事で楽しむ“完全食

人の健康に必要な栄養素を知っておこう

私たちの体は、食べたものでできています。
栄養素はいくつかの種類に分類されますが、栄養素の中でもたんぱく質・脂質・炭水化物の三つは体の土台となり、エネルギー源にもなるため三大栄養素とよばれています。※5、6
三大栄養素にビタミンとミネラルを加えたものは五大栄養素とよばれ、体の調子を整える働きがあります。
健康への近道は毎日45~50種類の栄養素をバランスよく摂取することにあり、どの栄養素も不足や過剰が続くと、健康からは遠ざかってしまいます。
まずは、国が定めている「34種類の栄養素」を知り、どのような栄養素が自分に不足しやすいのかを気にかけてみましょう。※5、6

日常の食生活で目指す完全な食事

完全な食生活を目指すなら、料理区分ごとに1日の食事量が示されている食事バランスガイドを目安とします。
食事バランスガイドは、人々の健康づくりを目的に作られたもので、同じ年齢、同じ性別でも、活動量によって必要な栄養素の量は変わります。※12
まずは、食事バランスガイドから自分の適量を調べてみましょう。
自分の適量がわかれば、外食でも家でも全体的な食事のものさしとなります。
食事は1食ごとに細かくバランスを整えるというよりも、朝食、昼食、夕食、間食を合計して1日分をトータルとして考え、主食、主菜、副菜のほかに、牛乳や乳製品、果物も取り入れるようにしましょう。
1日の食事の目安は30品目で、野菜は350gとなります。※12

毎日忙しくてそんなことできない、という方へ

体によいと分かっていても、毎日の食事で主食、主菜、副菜をバランスよく揃えた献立を用意するのは大変です。
忙しい現代では、なかなか食にかける時間を確保していくのは難しいでしょう。※13

しかし、毎食ごとに野菜を多く摂るだけでも、栄養バランスはずっと良くなります。
まずは、炭水化物の重ね食べに注意し、おにぎりとラーメンから、おにぎりと野菜サラダ、おにぎりと野菜たっぷり味噌汁に変えるだけでも栄養価はグンとアップします。
また、いつもの味噌汁に、ほうれん草やインゲン、ネギといった冷凍野菜をプラスすれば、しっかりと野菜を摂取することができます。※13
ストックのきくツナ缶やコーン缶などの缶詰をコンビニのサラダにプラスするだけなら、手間もかかりません。
忙しい朝には、バナナ+ヨーグルト、シリアル+牛乳といった簡単な1品でも大丈夫。
厳しく考えすぎず、「あ、もうちょっと野菜を足しておこう」「デザートにヨーグルト」という気持ちで、楽しく食事バランスを整えていきましょう。
そして、完全食に頼り過ぎは良くありませんが、たまには頼る日もあってもよいのではないでしょうか。※13
栄養バランスなどを考えすぎて、食事を摂るのが苦痛になっては意味がありません。
時には手軽に完全食・完全栄養食を取り入れながら、食を楽しむという習慣を身に付けていきましょう。

※5 中村丁次監修 2017年2月発行 栄養の基本がわかる図解事典 成美堂出版
http://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415327433/
※6 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
※12 厚生労働省 「食事バランスガイド」で実践 毎日の食生活チェックブック/2020年11月30日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/pdf/eiyou-syokuji8.pdf
※13 農林水産省 ちょうどよいバランスの食生活/2020年11月30日閲覧
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wakaisedai/attach/pdf/balance-8.pdf

まとめ

私たち人間にとって、健康と栄養は、切っても切れない関係があります。
日本には現在、人にとって大事な栄養素を賢く摂る便利な食品、完全食(完全栄養食)も登場していますが、その人にとって必要な栄養は、少しずつ違います。
自分の体としっかり向き合いながら、自分なりの完全食(完全栄養食)を見つけていきましょう。

ライター
岡部
看護師
埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。
一般向けおよび医療従事者向け書籍
○執筆・編集協力
・看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)  他
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