個人でできる感染予防策をしっかり行い、たくさんある感染症から身を守ろう
感染症には、とてもたくさんの種類があります。
感染する経路や、現れる症状も、実にさまざまです。
しかし、感染症は予防できる病気の一つでもあります。
もちろん、感染症を引き起こす病原体が体内に侵入するのを100%防ぐことはできません。
ですが、体内への侵入を最小限に抑えるためにできる感染予防策があり、これをしっかりと行うことで感染症にかかるリスクを大幅に軽減することが可能です。
健康な生活のために、正しい感染予防対策を行いましょう。
目次
- 感染の仕組みと感染経路
- 感染症の仕組み
- 病原微生物ってなに?
- 病原微生物が体の中に入るまで
- 感染経路別、よくみられる感染症
- 飛沫感染
- 接触感染
- 空気感染
- 媒介物による感染(経口感染含む)
- 垂直感染
- 感染予防の原則は?
- 原則は、手洗いと消毒
- ワクチンがあるものは予防接種を!
- 咳エチケット(マスク)も忘れずに
- 自分でできる感染予防、正しい手洗いとマスクの着用
- 正しい手洗い
- 正しいマスクの着用
- まとめ
感染の仕組みと感染経路
感染症の仕組み
感染は、病原性をもった微生物(=病原性微生物)が体内に入りこむことで起こります。※1
病原性微生物は、さまざまな経路でヒトからヒト(あるいは動物からヒト)へと広まっていきます。
病原性微生物は、体の中の細胞や組織に付着してその数を増やし※、毒素を発生させるという経過をたどりますが、細胞や組織そのものを変化させてしまうこともあります。※2
病原性微生物はさまざまな臓器や部位で炎症を起こしたり、特定の部位で特徴的な症状を発生させたりすることがあります。※2
こうした感染が引き起こすさまざまな病気を感染症といいます。
ただし、感染しても必ずしも感染症になるわけではなく、感染はしていても症状が出ないこともあります。
感染が成立し感染症を発症するまでには、病原性微生物の感染する力と、感染した側の抵抗する力のバランスが関係しています。※3
※付着してその数を増やし:正確には、細胞や組織に付着することを「定着」、その数を増やすことを「増殖」といいます。
病原微生物ってなに?
病原性微生物には、ヒトからヒトへ広がるものもあれば、動物からヒトに直接的または間接的に広がるものもあり、それらはあらゆるところに存在しています。※4
またその種類も実に多く、それぞれの特徴から大きく5つに分類されます。
厳密にいうと、生物(=生き物)ではない種類のものも存在していますが、大きい順に寄生虫、真菌、細菌、ウイルス、プリオンとなります。※2
病原微生物が体の中に入るまで
感染は、感染源である病原性微生物、主体となる人、そして感染経路の3つの要件がそろうことで成立します。※1
つまり、感染経路への対策をすることは、感染症予防策の大きなポイントとなります。※1、※2
感染経路は、水平感染と垂直感染の2つに分けることができます。
水平感染とは、感染源である人(あるいは物)から周囲に広がる経路をいい、さらに飛沫感染、接触感染、空気感染、媒介物感染の4つに分けられます。※3
垂直感染とはいわゆる母子感染(経胎盤感染、産道感染、母乳感染)のことを指しています。※2
※1 文部科学省 かけがえのない自分かけがえのない健康 第6章感染症 / 2020年5月29日閲覧
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/08/1288462_06.pdf
※2 医療情報科学研究所(編) 2015年3月発行 病気がみえるVol.6(第1版) メディックメディア / 2020年5月29日閲覧
https://www.byomie.com/products/vol6/
※3 AMR かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ 感染症とは / 2020年5月29日閲覧
http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html
※4 厚生労働省 動物由来感染症を知っていますか? / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000155663.html
感染経路別、よくみられる感染症
飛沫感染
飛沫感染とは、くしゃみや咳、会話などで排出される病原性微生物を含む唾液のしぶきを吸いこむことによって感染が広がっていくという経路です。※5
飛沫とは水分を含んだ直径5μm以上のものをいい、およそ1~2mの距離を飛散するといわれています。※2、5
飛沫感染による代表的な感染症としては、インフルエンザ、かぜ(風邪症候群)、百日咳、マイコプラズマ肺炎、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)などがあります。※2、※3
接触感染
接触感染とは、病原性微生物が付着した手で鼻や口に触れることによって体内に取り込んでしまう感染経路のことです。
皮膚や粘膜などの感染している部分に触れ、その手で自分の粘膜などに触れることで感染する場合もあれば、感染者が排出した病原性微生物が付着した物に触れることによって感染する場合もあります。
接触感染による代表的な感染症としては、伝染性膿痂疹(とびひ)などの伝染性皮膚疾患、梅毒や淋病などの性感染症、狂犬病や破傷風などの咬傷感染症があります。
また、飛沫感染を起こす感染症の多くは接触感染も起こし、例えば流行性角結膜炎も、顔や眼を拭いたタオルを共有することで、ウイルスが付着したタオルを介して感染が広がります。※6、※7
空気感染
空気感染とは、空気中に漂う微細な病原性微生物を吸い込むことによって感染する経路です。
空気感染を引き起こす微細な病原性微生物の飛距離は、数十mにも及び、一定時間空気中を漂うとされています。
また空気感染には、飛沫の水分が蒸発しその直径が5μm以下となった飛沫核が感染源となる飛沫核感染と、病原性微生物が付着した塵やホコリが感染源となる塵埃(じんあい)感染があります。
空気感染による代表的な感染症としては、結核、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)などがあります。※2、※3
媒介物による感染(経口感染含む)
媒介物感染とは、病原性微生物によって汚染されたものを介することによって感染する経路です。※3
食品を媒介とする食品媒介感染、血液を媒介とする血液感染、水を媒介とする水系感染、虫を媒介するベクター感染があります。
食品媒介感染とは、いわゆる食中毒の原因となる感染経路です。
家畜や魚介などが病原性微生物を持っている場合、加熱が不十分な状態で食べることによって、食品にふくまれる病原微生物が私たちの体に入り込み、感染が成立します。※2、※3
例えば、鶏卵によるサルモネラ症、魚介によるアニサキス症、ノロウイルス感染症などがあります。
汚染された水を口にすることによる水系感染には、コレラなどがあります。
血液感染の例としては肝炎やHIVなどがあります。
ベクター感染では、蚊による日本脳炎やデング熱、ダニが媒介するツツガムシ病、ノミが媒介するペストなどがあります。※4
垂直感染
垂直感染とは、母体に感染している病原性微生物が、妊娠・分娩・授乳を通して子どもに感染する、母子間での感染のことをいい、以下の3つに分けられます。
●経胎盤感染(胎内感染ともいう):病原性微生物が胎盤を介して胎児の血液に混入する
トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症、風疹、梅毒、HIVなど
●産道感染:分娩時に産道や母体の血中に存在する病原性微生物が感染する
B型肝炎、C型肝炎、カンジダ、淋病など
●母乳感染:病原性微生物が母乳を介して感染する
B型肝炎、C型肝炎、HIV、成人T細胞白血病(HTLV-1) ※8
※2 医療情報科学研究所(編) 2015年3月発行 病気がみえるVol.6(第1版) メディックメディア / 2020年5月29日閲覧
https://www.byomie.com/products/vol6/
※3 AMR かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ 感染症とは / 2020年5月29日閲覧
http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html
※4 厚生労働省 動物由来感染症を知っていますか? / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000155663.html
※5 国立感染症研究所感染症情報センター パンデミックインフルエンザ ワンポイント⑥個人における対応 / 2020年5月29日閲覧
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/webcast/pdf/5.pdf
※6 大阪大学医学部附属病院感染制御部 感染管理マニュアル 感染経路別防止対策 Ⅱ感染経路別予防策 / 2020年5月29日閲覧
https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-infect/file/manual/b-2.pdf
※7 厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-2
※8 NIID 国立感染症研究所 母子感染 / 2020年5月29日閲覧
https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/maternal.html
感染予防の原則は?
原則は、手洗いと消毒
病原性微生物はあらゆるところに存在していますが、その姿を目で確かめることはできません。
そのため、私たちは知らず知らずのうちにそれらに触れています。
その手はさらにいろいろな所に触れ、病原性微生物が付着した範囲を広げる役割を担うことになります。
私たちの手は、病原性微生物の運搬役だといえるでしょう。※3
病原性微生物が付着した手で口や鼻、目や傷口などに触れることで病原微生物は体内に侵入し、感染が成立します。※3
つまり、手に付着した病原性微生物を無くすか、減らすことができれば、病原性微生物が体に侵入すること=感染を防ぐことができます。
その方法として基本となるのが、適切な手洗いと消毒です。※9
これは、自分自身を守ることに加え、汚染された手で病原性微生物を周囲へ広げることも防ぐため、その先の誰かを感染から守ることもできます。
ワクチンがあるものは予防接種を!
また、もう一つ別なアプローチとして、感染を予防し、万が一感染した場合でも重症化するリスクを抑えるための予防接種もあります。※10
病原性微生物に感染してから感染症を発症する際には、病原性微生物が悪さをする力と、宿主(=私たち)が抵抗する力のバランスが重要です。
予防接種はこの抵抗する力(=免疫力)に大きく関わるものです。※10
私たちの体には免疫という仕組みが備わっています。※11
免疫は、自分自身ではないもの(=異物)から体を守る働きをします。
免疫機能は、異物を認識することから始まり、細胞や分子などが互いに協力し合って異物を排除していき、感染してしまった細胞ごと排除することもできます。※11
そうした免疫の仕組みには、私たちの体にもともと備わっている自然免疫と、侵入してきた異物(=病原微生物)の情報を基にしてできた獲得免疫があります。
自然免疫の働きは主に、異物※の侵入を察知し、最前線で好中球やマクロファージなどの細胞が異物を食べて排除する働きを担います。※12
一方の獲得免疫は、過去に1度侵入してきた異物※のことを記憶し、異物ごとの排除システムを発動させる働きをします。
そのため、2度目以降の侵入は1度目に比べ、より早く強い免疫反応が機能するようになります。※11
予防接種はこの仕組みを利用したもので、人工的につくった病原性微生物(=異物)を一旦体内に侵入させて記憶させておくことで、次に同じ病原性微生物が体に入ってき時に、より早く強く排除する働きをさせようとするものです。
もちろん、予防接種で感染を100%予防できるということではなく、感染してしまう場合もあります。
しかし免疫の仕組みにより免疫機能を高めておくことで、発症してしまっても重症化しにくくする効果が期待できます。※11
※異物:この場合は、感染源となる感染性微生物のことを意味します。
咳エチケット(マスク)も忘れずに
咳やくしゃみは、飛沫感染によって他者に感染を拡げてしまう可能性があります。
このような飛沫感染を予防する手段が、咳エチケットです。
学校や職場、公共交通手段の中など人が集まる場で咳をするとき、直接飛沫が飛ぶことを防ぎ、病原性微生物の運搬役となる手に飛沫を付着させない方法です。※13
正しい咳エチケットには、3つの手法があります。
1.マスクを着用する方法
2.ハンカチやティッシュで鼻と口をしっかりおさえる方法
3.上着の内側や袖の部分で口元を覆う方法※13
マスクに使用される素材によっては、小さいサイズの病原性微生物であるウイルスや細菌が繊維の隙間を通り抜けてしまうため、マスクの着用だけで外からの病原性微生物を完全に遮断することは難しいとされています。
しかし、感染させない、感染を拡げないことに対しては、一定の意義があります。
咳やくしゃみによる飛沫が直接誰かの口の中に届くのを防ぐことができるかもしれませんので、マスクの着用は社会的な感染予防の一つの手段だといえます。
正しく使って、自分や周囲の人の感染を予防しましょう。※13
※2 医療情報科学研究所(編) 2015年3月発行 病気がみえるVol.6(第1版) メディックメディア / 2020年5月29日閲覧
https://www.byomie.com/products/vol6/
※9 厚生労働省 感染対策の基礎知識1 / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/content/000501121.pdf
※10 AMR かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ 基本的な感染対策をしましょう / 2020年5月29日閲覧
http://amr.ncgm.go.jp/general/1-6-3.html
※11 熊ノ郷淳(編) 2017年6月発行 免疫ペディア 羊土社
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758120807/
※12 日本がん免疫学会 自然免疫 / 2020年5月29日閲覧
https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-02/
※13 厚生労働省 咳エチケット / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
自分でできる感染予防、正しい手洗いとマスクの着用
正しい手洗い
日々の生活の中で自分ができる感染予防として、正しい手洗いについて理解し、実践しましょう。
手洗いのタイミングは、手に何らかの病原性微生物が付着している可能性がある時、例えば外出から帰った時やトイレの後などです。
病原性微生物は口や鼻などから体内に侵入しますので、食事前や調理の前後などにもこまめに手洗いをしましょう。※14
また、忘れがちですが、マスクを外したときも手洗いは必要です。
手洗いは、指先や爪の間、指の間、親指の周り、手首、手のしわなどの汚れが残りやすい場所を意識しながら行います。
また、あらかじめ時計や指輪を外しておくこと、爪を短く切っておくことも大切です。
正しい手洗いの手順は次のとおりです。
- 流水で手を濡らし石けんを泡立て、手のひらをよくこする
- 手の甲を伸ばすようにこする
- 指先・爪の間を入念にこする
- 指の間を洗う
- 親指と手のひらをねじり洗いする
- 手首を洗う
洗い終わったら石けんをよく流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かしましょう。※15
正しいマスクの着用
マスク着用も感染予防策になりますが、マスクは正しく着用しないと、感染予防の意味が薄れてしまいます。
マスク着用の際はその素材に関わらず、顔にフィットしていることが大切です。
鼻と口の両方がきちんと覆われていて、余分な隙間がなく着用できているか確認しましょう。※15
マスクは正しく着用することと同時に、正しく外すことも大変重要です。
マスクの表面(外側)には、他の人の飛沫に含まれる病原性微生物が付着している可能性があります。
マスクを外す際はマスクの表面に触れないように紐をつまんで外すようにします。
不織布マスクは紐を持ったまま専用のごみ箱に入れるか、ごみ袋に入れて口をしばって捨てるようにし、その後で手洗いをします。※14、※16
このような注意点は私たちの日常生活でのマスクだけでなく、感染症を扱う医療者が着用する感染防護のための装具(ガウンなど)を脱ぐ時にも注意徹底されている点です。
脱ぐ時が一番、感染を拡げてしまう可能性があるため、医療者は着脱の訓練を徹底して行っています。※16
私たちと医療者とでは度合いが違いますが、病原性微生物が表面に付着している可能性があることを意識して取り扱うことは共通した考え方です。
なお、不織布のマスクが無い場合には、布製のマスクやガーゼマスクなどを使用しましょう。
またマスクが無い場合でも、タオルなどで口元を覆うことで、少なくとも自分自身の飛沫を防止することができます。※15
一人ひとりが自覚をもって、感染予防を心がけていきましょう。
※14 東京都感染情報センター <新型コロナウイルス感染症の留意事項> / 2020年5月29日閲覧
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/respiratory/ncov/abstract.pdf
※15 首相官邸 新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~ / 2020年5月29日閲覧
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
※16 Medical SARAYA PPEのススメ / 2020年5月29日閲覧
https://med.saraya.com/kansen/ppe/chakudatsu/mask.html
まとめ
感染症は私たちの健康な生活をおびやかす、やっかいなものです。
感染源は目に見えませんから、いつ、どこで、どのような経路で体の中に入ってくるのかわかりません。
しかし、可能な限り「体の中にいれない」ことや、仮に体の中に入ってきても対抗できる「免疫力」があれば、感染症のリスクは少なくできます。
個人で出来る感染対策をしっかり行い、健康な生活を維持していきましょう。
- 成田 亜希子 医師
-
医師
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。
その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。