大人も子供も知っておきたい感染症。どのような病気で、なぜ流行してしまうのか?

公開日:2020.10.09

「感染症」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。
感染症は、「感染した」ときに症状が出てくるのではなく、「潜伏期間」と呼ばれる一定の期間が過ぎた後に何らかの症状が出て初めて、「感染症を発症」したことになります。
では、感染とはどのように起こり、発症していくのでしょうか。
そして「感染症が流行する」とは、どのような状況を指すのでしょうか。
知っているようで、細かいことは分かりにくい感染症についてみていきましょう。

目次

  1. 感染症とは?
    • 感染症とは何か
    • 感染源になるもの=病原性微生物
  2. 感染症の歴史
    • 感染症はいつ頃からあったの?
    • 近代以降の感染症の歴史
  3. 感染と発症の関係
    • 「感染する」とはどういうこと?
    • 「発症する」とはどういう意味?
    • 感染すると必ず発症するの?
  4. 感染が「流行する」とは?
    • 感染症には「疫学」という考え方がある
    • 感染の「流行」の基準とは?
    • パンデミックとアウトブレイク
  5. まとめ

感染症とは?

感染症とは何か

感染症とは、何らかの病原性微生物に感染し、潜伏期間を経てさまざまな症状がみられるようになった病気のことです。※1、※2
感染症を発症することは、何らかの病気になったということです。※2、※3
表現としては、「感染症にかかった」や「感染症になった」などが一般的かもしれません。
感染と感染症はよく似ていますし、私たちは「感染した=感染症にかかった」と考えがちですが、実際には少し意味が違います。
感染というのは、病原性微生物が私たちの体の中に入ることです。
感染症にかかったというのは、インフルエンザや風疹などの病気の症状を発症した状態です。つまり、何らかの自覚症状が出たときや、自覚症状は無くても検査データ上で感染症を発症していることが明らかになった状態を指します。※2、3、4

感染源になるもの=病原性微生物

病原性微生物とは、病気の原因となる微生物(目には見えないほど小さな生き物)のことです。
細菌やウイルスのほかにも、真菌(しんきん)原虫(げんちゅう)寄生虫(きせいちゅう)プリオンなどがあります。※2、※3、※4
これらの病原微生物は、いったいどこから来るのでしょうか。
それは、感染症にかかっている(またはキャリアとなっている)人の体から出てくる血液や唾液、排泄物、嘔吐物などからです。
これらの中にいる細菌やウイルスなどが別の人の体の中に入り込むことで、感染が広がっていきます。※4
ところで、病原性微生物としてひとくくりにしていますが、正確には、ウイルスとプリオンは、生物ではありません。
ウイルスは、それ単体では増えることができず、私たちの細胞の中で増殖します。※2
細胞の分裂や細菌の増殖のような増え方をしないということもあり、生物と非生物の中間的な存在です。
細菌などに比べると非常に小さく、電子顕微鏡でなければその姿を見ることはできません。
また、プリオンは正常とは違う、異常な構造を持つたんぱく質のことで、正常なたんぱく質をプリオンに変えてしまう力をもっています。
このため、プリオンも生物ではありませんが、感染力と病気の原因となる力を持っているため、病原性微生物に含まれています。※2
では実際に、どのような病原性微生物が私たちの周りにいるのかをみていきましょう。

<細菌>
細菌の仲間には、有名なものがたくさんあります。
たとえば、食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌、腸管からの出血を起こす腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌、肺炎の原因となる肺炎球菌などです。※2、※5
また、子供の発熱の原因として、溶連菌(一般的にはA群溶血性連鎖球菌が多い)もあります。※2


<ウイルス>
ウイルスの仲間も、有名なものが多いのではないでしょうか。
たとえば、風邪症候群や気管支炎、肺炎の原因となるものには、RSウイルスライノウイルスアデノウイルスインフルエンザウイルスなどがあります。※2
また、ウイルス性の下痢を起こすものには、ノロウイルスロタウイルスなどがあります。※2

 

<寄生虫(きせいちゅう)>
寄生虫の中で有名なものとしては、アジやサバ、イカなどから感染するアニサキスがあります。
胃の中に入り込むと胃の内側の壁(胃壁)に潜り込んで非常に強い胃痛を引き起こします。※2

 

<原虫>
原虫の中で有名なものには、蚊に刺されることで感染するマラリアや、不衛生な水を飲むことで感染するアメーバなどがあります。※2、※6

 

<真菌>
真菌には、水虫の原因となる白癬菌や、粘膜の炎症を起こすカンジダがあります。※2

 

<プリオン>
牛がかかる牛海綿状脳症(BSE)という感染症がありますが、これとよく似た症状が現れる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病という人の感染症があります。
その原因が、牛の脳にできたプリオンを口にすることとされています。※2、※6

※1 文部科学省 かけがえのない自分かけがえのない健康 第6章感染症 / 2020年5月29日閲覧
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/08/1288462_06.pdf
※2 医療情報科学研究所(編) 2015年3月発行 病気がみえるVol.6(第1版) メディックメディア
https://www.byomie.com/products/vol6/
※3 田中稔之(著) 2016年8月発行 初めの一歩は絵で学ぶ免疫学 じほう
※4 AMR かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ 感染症とは / 2020年5月29日閲覧
※5 厚生労働省 腸管出血性大腸菌Q&A / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html
※6 厚生労働省 動物由来感染症を知っていますか? / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000155663.html

感染症の歴史

感染症はいつ頃からあったの?

感染症の起源は正確には分かっていません。
少なくとも紀元前から残されているミイラには、いくつかの感染症の痕跡が残っているといわれています
日本に明らかな感染症が入って来たのは奈良時代で、シルクロードを経由して天然痘が入ってきたといわれています。※1
14世紀には、ヨーロッパを中心にペスト(黒指病:この感染症にかかると指先が黒く変色することからこう呼ばれた)が大流行しました。
この頃はまだ感染症という概念が無かったのですが、16世紀の科学者ジロラーモ・フラカストロは種のような何かが受け渡されることで感染症が広がるという説を唱えました。※7
ジロラーモはさらに病気の種は直接か間接、あるいは距離があったとしてもそれを飛び越え、さまざまな方法で感染すると主張、しかし残念ながら彼のこの考えは、当時の人たちの間ではあまり受け入れられなかったようです。※7

近代以降の感染症の歴史

17世紀の後半になると、アントニ・ファン・レーウェンフックという人物が脚光を浴びました。
医学界や科学者の間で名声を得たレーウェンフックですが、実は洋服の生地を扱う商でした。
商売上レンズを磨くことが得意だったレーウェンフックは、顕微鏡を使った微生物の観察記録を多く残し、微生物の父という異名も残しています。※7
しかし当時はまだ、微生物が感染症の原因なのか、感染症の結果でできたものが微生物なのかは分かりませんでした。
特有の微生物が体の中に入り込み、特有の病気を起こすことが分かったのは、19世紀の後半にドイツの開業医ロベルト・コッホが発表した炭疽菌の生活史という論文からです。※7
その後、科学者は盛んに感染症の研究を行い、免疫という言葉も生まれました。※7
第二次世界大戦の頃になると、人の唾液の中にも感染源があることが分かってきました。
口元を覆うこと無しに直接咳やくしゃみをすることに、警鐘を鳴らすという意味が込められたポスターが作成されました。
つまり、この頃にはすでに、病気を広めないための有効な方法として、咳エチケットが推奨されていたことになります。※7これは、現在の咳エチケットにつながる考え方です。
また、感染症は多くの人の命を奪うこともありますから、これを止めるための研究が重ねられ、さまざまな感染症に対するワクチンも開発されました。
その結果、地球上から根絶できた感染症もあります。
その代表例である天然痘は、1980年に世界保健機関により絶滅が宣言されています。※1

※1 文部科学省 かけがえのない自分かけがえのない健康 第6章感染症 / 2020年5月29日閲覧
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/08/1288462_06.pdf
※7 William Bynumら(著) 鈴木晃仁ら(訳) 2012年9月発行 Medicine-医学を変えた70の発見 医学書院

感染と発症の関係

「感染する」とはどういうこと?

感染とは前述の通り、病原性微生物が私たちの体の中に入り込んだ状態のことをさします。
では、これら病原性微生物はどのようにして広がっていくのでしょうか。
病原性微生物は現在、人を介して感染が広がるもの動物や虫を介して広がるもの、さらにはや食べ物を介して広がるものがあることが分かっています。※2、※6


感染が広がる経路は大きく4つ、飛沫感染、接触感染、空気感染、媒介物による感染です。

  • 飛沫感染:人が話したり咳き込んだりした時に口から飛び出す飛沫(唾液)に含まれる病原性微生物を吸い込むことで感染します。
  • 接触感染: 病原性微生物が付着したものに触れ、その手で口や鼻などを触って体内に取り入れてしまうことで感染します。※8
  • 空気感染:飛沫感染と似ていますが、より小さな粒となって空気の中を漂う病原性微生物を吸い込むことで感染します。
  • 媒介物による感染:病原性微生物を含む水や食物のほか、蚊に刺される、ネズミに咬まれることなどで感染します。※4

尚、これらとは少し意味合いの違う感染経路として、垂直感染という経路もあります。
垂直感染は、母体に感染している病原性微生物が、妊娠・分娩・授乳を通して子どもに感染する、母子間での感染のことです。※9
垂直感染は、感染する状況により、経胎盤感染(胎内感染ともいう、:病原性微生物が胎盤を介して胎児の血液に混入する)、産道感染(分娩時に産道や母体の血中に存在する病原性微生物が感染する)、母乳感染(病原性微生物が母乳を介して感染する)、上行感染(産道に排出された病原微生物が子宮を逆行して胎児に感染する)があります※9
なお、経胎盤感染によって胎児に重い症状を引き起こす感染症をまとめてTORCH症候群といいます。
原因となる病原性微生物であるT=Toxoplasmosis(トキソプラズマ症)、O=Other agents(梅毒、B型肝炎など)、R=Rubella(風疹)、C=Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)、H=Herpes simplex(単純ヘルペス(感染症)の頭文字から、こう呼ばれています。※2、※9

「発症する」とはどういう意味?

前述の通り、感染感染症の発症は意味が違います
なんらかの病原微生物に触れ(吸い込み)私たちの体の中、あるいは細胞の中で増殖し、膨大な数にまで膨れ上がることを「感染」と呼びます。
一方、細菌やウイルスなどの病原微生物が増殖した結果、体の一部に炎症が起きたり、発熱などの全身症状が見られたりするようになったり、症状がなくても検査データで異常値を示すようになったときが、感染症を「発症」すると言います。

感染すると必ず発症するの?

感染症を発症したかどうかは、発熱や全身倦怠感などの全身症状、頭痛、咳、胸痛、下痢やおう吐、消化不良など、何らかの自覚症状がみられなければ気付きません
何らかの病原微生物に感染したとしても、何も症状がなければ医療機関を受診することはありませんし、検査を受けることもありませんから、感染したことにすら気が付かないのです。
この状態を、不顕性感染などと呼びます。※2
では、感染しても発症する人としない人がいるのはなぜでしょうか。
それは、私たちの体に備わる免疫機能の強さに関係します。
免疫機能を担う細胞を免疫細胞と呼びますが、この働きは大きく3つに分かれます。
体の中に入り込んだ病原性微生物を食べる働き(貪食:どんしょく)、病原微生物そのものを撃退する働き(抗原抗体反応)、そして感染した細胞を殺す働きです。※10
これらの免疫機能が強く働くと、感染しても発症しないキャリアとなったり、病原性微生物自体が体から居なくなったりします。※2
しかし、キャリアとなっている人自身が感染症を発症しなかったとしても、その人の体の中に何らかの病原性微生物が残っている場合は、周りの人に感染を広げてしまうことがあります
この状態の人と接した場合、自分自身の体の中にも病原性微生物が入り込んでキャリアとなっている可能性がありますし、気付かないうちにさらに感染を広げてしまう可能性がありますので、注意が必要です。

※2 医療情報科学研究所(編) 2015年3月発行 病気がみえるVol.6(第1版) メディックメディア
https://www.byomie.com/products/vol6/
※4 AMR かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~ 感染症とは / 2020年5月29日閲覧
http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html
※6 厚生労働省 動物由来感染症を知っていますか? / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000155663.html
※8 厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) / 2020年5月29日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
※9 NIID 国立感染症研究所 平成24年度 感染症危機管理研修会 母子感染の課題 / 2020年5月29日閲覧
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/kikikanri/H24/20121018-13.pdf
※10 熊ノ郷淳(編) 2017年6月発行 免疫ペディア 羊土社
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758120807/

感染が「流行する」とは?

感染症には「疫学」という考え方がある

ところで、免疫という言葉にも「疫」の文字が使われていますが、この文字を使った「疫学」という言葉があります。
例えば、「●●という感染症は成人より小児の方が多い」や、「高齢者は重症化しやすい」などと定義し、その対策を立てるために必要とされるのが疫学です。※11、※12
疫学調査ではまず、どの感染症が、いつ、どの地域で、どのような人に、どれくらい発症しているかなどについて、感染症を発症している人を記録します。※11
さらに年齢や性別、最近の行動などを把握することで、その感染症を発症しやすい人、感染したと思われるときの行動、感染経路などが分かってきます。
こうした情報を分析することで、感染を広げないための対策を考えたりすることができるようになります。※11
実際、地球上から根絶することができた天然痘も、ワクチンだけでなくこうした疫学調査も重要な役割を果たしたといわれています。※12

感染の「流行」の基準とは?

比較的身近な感染症として、冬に流行するインフルエンザがあります。
毎年、流行が広まった地域において学級閉鎖の措置がとられることがありますが、ここにも疫学が大きな役割を果たしています。
例えば、特定の集団の中で感染者数が急激に多くなれば流行の兆しがあるなどと判断され、これ以上感染を広げないために、集団生活の場である学級(あるいは学校)を、一定期間だけ閉鎖してしまうのです。※13
これを事前に察知する考え方として、警報レベルと注意報レベルがあります。
警報レベルは、その集団の中で大きな流行が発生している、あるいは継続していると疑われていることを示しています。
注意報レベルは、まだ流行していない場合は今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いことを示し、流行発生後なら流行の継続が疑われていることを示します。※13

パンデミックとアウトブレイク

近年、メディアなどでパンデミックという言葉を耳にすると思います。
パンデミックは、国境を超えて世界中に感染が拡大した状態を示す言葉です。
流行の拡大状況により、パンデミックエピデミックエンデミックと、3段階で表現されることもあります。
エピデミックは、特定の地域での病気の発生が通常よりも明らかに多い状態、流行のことです。
エンデミックは、特定の地域や地方で日常的かつ継続的に病気が発生することで、いわゆる風土病や地方病が該当します。※11
もう一つ、感染症に関係する言葉で、アウトブレイクもあります。
これは、特定の地域や施設の中で突発的に集団感染が起こり、一気に患者数が増える状態のことです。
エピデミックと似ていますが、アウトブレイクは、同一の病棟や病院内など、一定の場所の中で急に起こるというニュアンスが含まれます。※14

※11 一般社団法人日本疫学会 感染症疫学の用語解説 / 2020年5月29日閲覧
https://jeaweb.jp/covid/glossary/index.html#ekigakuchousa
※12 世界保健機関(WHO) WHOの標準疫学 第2版 / 2020年5月29日閲覧
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/43541/9241547073_jpn.pdf?sequence=3&isAllowed=y
※13 神奈川県衛生研究所 感染症の流行ってなあに?~感染症発生動向調査について~ / 2020年5月29日閲覧
http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/005_databox/0504_jouhou/0601_eiken_news/files/eiken_news179.htm
※14 独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター 院内感染防止対策 アウトブレイク / 2020年5月29日閲覧
https://maizuru.hosp.go.jp/pdf/aboutmed/infection/06-7-1outbreak.pdf

まとめ

私たちの健康をおびやかす感染症は、とてもたくさんあります。
感染症の原因となる病原性微生物は目に見えませんし、いつどこで感染したのか分からないことの方が多いでしょう。
「感染症を発症する」のは、なんらかの症状が見られるようになったときです。
体調の変化に気付いたら、早めにかかりつけ医を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。

ライター
成田
医師
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。
その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。
公開日:2020.10.09
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