私たちの生活に馴染み深いハトムギには、健康パワーがあった!!

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日本では、ハトムギと聞くと「ハトムギ茶」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
そして、ハトムギには「なんとなく体によい」というイメージがあるのではないでしょうか。
近年では、ハトムギは健康維持以外にも嬉しいパワーを発揮してくれることが知られるようになり、活用シーンが増えています。
ハトムギの持つ栄養成分とは、一体どのようなものなのでしょうか。

目次

  1. ハトムギってなに?
    • ハトムギとは
    • ハトムギの特徴
  2. ハトムギの栽培
    • ハトムギの栽培方法とは
  3. 健康パワー溢れるハトムギ
    • ハトムギに秘められた健康パワー
    • 日本のハトムギ、世界のハトムギ
  4. ハトムギを上手に摂るには
    • ハトムギの食べ方
    • ハトムギの安全性
  5. まとめ

ハトムギってなに?

ハトムギとは

ハトムギはイネ科のキビ亜科、ジュズダマ属の一年生作物です。
植物学的にはトウモロコシに近いイネ科の作物です。
ハトムギは「穀物」に分類されていますが、「穀物」は世界の耕地のうち約7割の面積で栽培されている作物です。
穀物はそもそも、私たち人類が消費するカロリーの半分をまかなう栽培植物群で、世界にはおよそ30種類もの穀物が知られています。
穀物の中でも経済的に重要度の高いのは、パンコムギ、イネ、トウモロコシなどの一部のものです。
その他の多くのものは自家消費用として栽培されたり、限れた地域の中でだけ利用されたりしています。
日本では、ハトムギがハトムギ茶の原料として利用されているため、比較的メジャーなものとなっていますが、もともとはインドの北東部にあるアッサム地方からミャンマー付近にかけての地域で栽培化され、そこから東南アジア各地へと、広がったと考えられています。※1、2、3
ハトムギが日本へと渡来してきたのは江戸時代です。
今からおよそ300年前、1716年から1735年に中国から渡来し、食用としてだけではなく、滋養のあるものとして小規模ながらにも栽培されてきました。
しかし近代に入り、1884年頃から厚生労働省の呼びかけにより保健食として奨励されるようになり、1943年には食糧不足を補うための食料資源のひとつとされ、かなりの増産がはかられたようです。※1、2、4、5

ハトムギの特徴

ジュズダマ属の植物とは、もともと河川や湖沼の周辺の湿地を好み、耐湿性が強い植物です。
ハトムギも湿性地のほうがよく生育はするのですが、半湿地から乾燥畑まで広い範囲で生育します。
1979年以降、ハトムギは各地で品種比較が行われ、岡山在来、中里在来、徳田在来の三品種が主に作付けされました。
現在は、東北地方から鳥取県など、多くの地域で栽培されています。
それでは、ハトムギの主な品種を見てみましょう。※2、4


はとちから
1990年に岡山農業試験場で育成されました。
はとちからは全体的に小型で、草丈は160センチ前後なためコンバインでの収穫がしやすくなっています。
また、暖地向けの品種であるため、栽培適地は関東より西となります。※2、4


はとむすめ
1992年に東北農業試験場で育成されました。
成熟期ははとちからより約18日も早く、草丈は130センチ程度となっています。
栽培適地は東北南部の湿団地、暖地です。※2、4


はとじろう
1995年に東北農業試験場で育成が行われ、極早生で短稈の在来種から作られました。
大粒で、穀実は固いという特徴があります。
製茶適正は並みとされ、製粉品質はやや劣っています。
栽培適地は東北中北部とされ、青森県、秋田県では推奨品種とされています。※2、4


はとひかり
はとじろうと同じく、1995年に東北農業試験場で育成されました。
岡山の在来種から作られたもので、熟期ははとちから、はとむすめの中間です。
中国地方の中山間地が栽培適地とされ、広島県の推奨品種となっています。※2、4
近年ではハトムギは、お茶以外にも利用されています。


例えば、ファミリーレストランなどでも見かける、雑穀米
これは、白米(米)だけではなく、玄米(発芽玄米)、麦、ゴマ、粟、ひえ、トウモロコシなどともに、ハトムギも入っています。
実際に何がどれくらいの割合で含まれているのかは、雑穀米を販売するメーカーなどにもよりますが、白っぽい楕円形で片方の面に茶色い太めの線が入っているものがあったら、それがハトムギです。
近年のこうしたブームも後押しとなり、現在はハトムギの生産量が徐々に増え始めています。※6

※3 J-STAGE ハトムギ成分Coixol(6-methoxybenzoxazolone)の行動薬理学的ならびに脳波学的研究 / 2019年7月29日閲覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj1944/77/3/77_3_245/_pdf/-char/ja
※4 日本特産農作物種苗協会 特産種苗 特集 ハトムギ / 2019年7月29日閲覧
http://www.tokusanshubyo.or.jp/jouhoushi/tokusanshubyo-3.pdf
※5 日本補完代替医療学会 殻付ハトムギ熱水抽出物(CRD)の研究開発 / 2019年7月29日閲覧
http://www.jcam-net.jp/data/pdf/17018.pdf
※6 日本特産農作物種苗協会 特集 雑穀・豆類の機械化 / 2019年7月29日閲覧
http://www.tokusanshubyo.or.jp/jouhoushi/tokusanshubyo-18.pdf
※1 イモとヒト-人類の生存を支えた根栽農耕 その起源と展開  吉田集而 堀田満 印東道子編 2003年8月発行 平凡社 
※2 新特産シリーズ 雑穀―11種の栽培・加工・利用 及川一也著 2003年11月発行 農山漁村文化協会

ハトムギの栽培

ハトムギの栽培方法とは

ハトムギの種子は水中などに置いたままだと芽が出ませんが、2週間水を張ったままにしておいても、その後水を抜く処理(落水)を行うと芽が出るため、水田でも畑でも育てることができます。
また、高温多日照、土壌が湿潤という条件下で大きくなり、酸性の土壌にもよく適応する性質があります。
ハトムギの発芽適温は、25~30℃前後です。
気温が14℃以下になると発芽が極めて難しく、その後も15℃を下回ると育たなくなりますが、気温が高くなればスクスクと育ちます
6割以上の実ができたら、収穫です。※1、2、6
それでは、水田での移植栽培と直播栽培のポイントを見てみましょう。


水田移植栽培
ハトムギの種子は、水を張った水田に直播してもなかなか芽が出ませんので、別の場所である程度の大きさまで苗を育ててから、水田での移植栽培を行います。
種を播くのは4月下旬から5月下旬(寒冷地ではビニールハウスを使用)、苗が育つまでの間に水田を耕うん機で耕し、元肥を撒くなどして準備をしておきます。
その後、平均気温が15℃以上となる5月下旬から6月上旬にかけて田植えを行い、そこから1ヶ月間は水をやや浅めに張っておきます。
7月上旬頃に追肥を行い、それ以降は落水しますが、乾燥しないように時々水を入れます。※1、2、6


直播栽培
水田に直接、種を撒いていく栽培方法のため、排水のよい場所を選定する必要があります。
また雑草を防ぐため、前年の秋頃には全面をしっかりと耕して、雑草の繁殖を予防します。
翌春(種を播く少し前の時期)に整地し、保水性のある畑を作っておきます。
一日の平均気温が15度を超え、畑に霜が降りなくなったら、種の播き時となります。
種を播く時期を早めると多収(収穫量が多くなる)になる傾向があるため、東北地方では5月上旬頃に早めの播種期を設定すると良いようです。※1、2、6


また、田畑での栽培は米とは異なる部分もあるため、ハトムギの生産方法や機械化について、さまざまな研究もなされているようです。※2、6

※6 日本特産農作物種苗協会 特集 雑穀・豆類の機械化
http://www.tokusanshubyo.or.jp/jouhoushi/tokusanshubyo-18.pdf
2019年7月29日閲覧 
※1 イモとヒト-人類の生存を支えた根栽農耕 その起源と展開 吉田集而 堀田満 印東道子編 2003年8月発行 平凡社 
※2 新特産シリーズ 雑穀―11種の栽培・加工・利用 及川一也著 2003年11月発行 農山漁村文化協会

健康パワー溢れるハトムギ

ハトムギに秘められた健康パワー

食と健康への関心が高まる中で注目されるハトムギにはどのような栄養素が隠れているのでしょうか。
古代文明の頃から人類を支え発展してきた穀類の中でも、ハトムギは日本人の食生活に古くから取り入れられてきました。
しかし、戦後すぐの食料不足から高度経済成長期を経た現代では、日本人の食は欧米化され、肉やパンなどを中心とした食事へと変化してきた結果、栄養バランスに大きな変化が生じ、健康な体とは縁遠い人も増えてきました。
一方でハトムギは栄養価に富み、現代人に不足しがちなミネラルや食物繊維を豊富に含んでいます。
一時期は消費者ニーズが白米よりも低下していた雑穀の力を、今一度見直してみてはいかがでしょうか。


それでは、ハトムギの持つ健康パワーをみてみましょう。
ハトムギは穀類の中でも高たんぱくで、精米と比較すると2倍以上ものたんぱく質を含んでいます。
消化率はアワなどと同等の優れた性質を持ち、その他にもビタミンやミネラル、食物繊維、脂質、カルシウム、鉄分なども多く含み、健康な体を支えるパワーがあの一粒一粒にギュッと濃縮されています。
さらに、ハトムギの若葉にはポリフェノールも含まれています。
ポリフェノールには、植物が持つ「自分を外敵から守る力=フィトケミカル」があります。
このような力は、人が体内に取り入れることで健康な体を守っていくことにも大きく役立ちます。
大地から授かった栄養の宝庫といえるハトムギを摂取し、健康な毎日を送りましょう。※1、2、7

日本のハトムギ、世界のハトムギ

一粒に濃縮された元気の源ともいえるハトムギは、現代の日本ではどのように利用されているのでしょうか。
健康パワーを見出されたハトムギは、実にさまざまな利用がされており、茶飲料だけではなく保存食製菓材料などにも使われるようになりました。
しかし、ハトムギ粉を調理食品として利用しているというケースはまだ少ないようです。
ハトムギ粉は小麦粉と比べると糊化するまで時間はかかりますが、加える水分量や副材料を調整することで健康面だけではなく、嗜好品(クッキーなどを作ることができる)として楽しむことも出来るので、時には時間をかけてハトムギを楽しむことも面白いでしょう。
中国ではハトムギの殻を取り除いたものを「ヨクイニン」と呼んでいます。
紀元前1500年頃にはインドで栽培されていたと考えられているハトムギが中国へと伝わったのは後漢時代です。
中国でもハトムギは健康に良いものとされ、中国の古書でもその元気パワーは紹介されていました。※1、2

※7 J-STAGE ハトムギ粉を用いた調理食品の小麦粉代替食品としての適応性の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/2/49_128/_pdf
2019年7月29日閲覧
※1 イモとヒト-人類の生存を支えた根栽農耕 その起源と展開 吉田集而 堀田満 印東道子編 2003年8月発行 平凡社 
※2 新特産シリーズ 雑穀―11種の栽培・加工・利用人類の生存を支えた根菜農耕 及川一也著 2003年11月発行 農山漁村文化協会

ハトムギを上手に摂るには

ハトムギの食べ方

食と健康に気を配り、自然食を楽しむ人々には受け入れられている雑穀ですが、中には雑穀は不味いという人もいます。
確かに米と同じように炊いて食べると、温かいうちは美味しいのですが冷めるとパサパサと硬くなり食べにくくなってしまいます。
米に比べ食べにくいとされるハトムギですが、調理法によっては美味しく食べることができます。
それでは、ハトムギを美味しく摂取できる法を見てみましょう。


加工せずに食べる方法
ほとんどの穀物は収穫してから乾燥、脱穀、精白など一連の加工を行ってから調理されますが、ハトムギはこのような加工をせずに食べる方法が3つあります。
1つめは、生で食べる方法で、ハトムギが完全に熟す前の中身が柔らかいうちに殻を割ってそのまま口にするというシンプルなものです。
タイ北部やラオスで食べられている方法で、穂の一部だけを収穫し利用できるという特徴があります。
2つめは、穂ごと茹でる方法で、これはトウモロコシを丸ごと茹でる方法と同じ食べ方になります。
この方法では鍋に入れるだけで他の加工プロセスはなく、大型タイプのハトムギの粒を楽しむ食べ方です。
そして、3つめは、穀粒ごと煎じて飲む方法です。
これは日本のハトムギ茶にあたる調理法で収穫後、脱穀まで行ったあと調理を行います。
焙煎は短くてもよいのですが、香ばしさを出すために、長めに焙煎を行うのがよいでしょう
しかし、焙煎が強すぎると渋みや苦味が強くなるため、注意が必要です。※2、7


・粒のまま食べる
ハトムギが最も多く食べられている食べ方はハトムギ単独か、米と混ぜて飯を炊く方法です。
飯以外の方法では炒る、おこわに蒸す、スナックや菓子を作るといった調理方法があります。※2、7


・粉にひいて食べる
ハトムギを粉にひいて利用する調理法は少なく、インド北東部でのパンを焼く方法と、東南アジアではスナックや粉粥に利用されていました。
また韓国では粉餅や粉粥、飲料に利用され、食欲のない時でも栄養価が高いため元気の源になると重宝されました。※2、7


酒を造る
インドの北東部や東南アジアにおいて酒の原料としてハトムギが利用されています。
インドのナガランドでは麹酒作りにハトムギが使われ、餅麹を混ぜたものを3日ほど置いて桶やカメなどに移して発酵させます。
またタイではハトムギは米と同様に炊いて食べる他、カメにいれて3日でできあがるタオプシーという酒を造ることもあります。※2、7


意外にもハトムギにはいろいろな食し方があります(日本では、個人が酒を作ることは個人の楽しみ以外禁止されていますので、注意しましょう)。
色々な方法でハトムギを楽しむのも良いですね。※1、2、7

ハトムギの安全性

ハトムギは昔から食べられてきた自然のものであるため、体に害を及ぼす心配は少ないと考えられます。
近年ではその健康パワーから、化粧水としても利用されています。
また、小麦や卵、牛乳、大豆、米などのアレルギーがある人にとって、雑穀やハトムギがこれらの代わりになる可能性もあります。
しかし、雑穀アレルギーは全くないわけではありませんので、ハトムギをアレルギーの代替食にできるかどうか、必ず専門医に相談して、指示に従う必要があります。※2、5、8
また、一時期、妊婦へのハトムギ摂取につて話題となったことがありました。
現在のところ、「妊婦にハトムギ茶は禁忌」という結果は出ていません。
ただし、普段の食事に加え、ハトムギをより積極的に摂取しようとする場合には、主治医に相談してみると良いでしょう。※8
妊婦や授乳婦だけではなく、ハトムギの1日の摂取量はほどほどに。
体に良いからと過剰に摂取すると、反対に体調を崩してしまうこともあります。
ハトムギに限らず、どのような食べ物も適度にバランスよく摂取する事が大切です。※2、5、8

※5 日本補完代替医療学会 殻付ハトムギ熱水抽出物(CRD)の研究開発
http://www.jcam-net.jp/data/pdf/17018.pdf
2019年7月29日閲覧
※7 J-STAGE ハトムギ粉を用いた調理食品の小麦粉代替食品としての適応性の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/2/49_128/_pdf
2019年7月29日閲覧
※8 J-STAGE 妊娠中のハトムギ使用について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/15/2/15_141/_pdf
2019年7月29日閲覧
※1 イモとヒト-人類の生存を支えた根栽農耕 その起源と展開 吉田集而 堀田満 印東道子編 2003年8月発行 平凡社 
※2 新特産シリーズ 雑穀―11種の栽培・加工・利用人類の生存を支えた根菜農耕 及川一也著 2003年11月発行 農山漁村文化協会

まとめ

現在、日本人の食生活はとても豊かになりました。
日本で古くから各地で栽培されてきたハトムギは、米や小麦などの「主穀」とは違い、「雑穀」に分類されていますが、近年は米の代わりにハトムギ栽培が始まるなど、その価値が見直されつつあります。
ハトムギの持つ健康パワーを上手に取り入れ、元気な体をつくりましょう。

ライター
岡部
看護師
埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。
一般向けおよび医療従事者向け書籍
○執筆・編集協力
・看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)  他
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