コレステロールは敵?味方?上手な付き合い方をご紹介

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「コレステロール」と聞くと、眉をひそめる人はいませんか?
どうしても悪いイメージを感じがちなコレステロールですが、実はわたしたちが生きていく上で欠かせない役割を果たしています。
私たちの体にとって悪いと思われがちなコレステロールですが、よく知れば敵だと思っていたコレステロールを味方にできるかもしれません。
今よりも健康な生活を送れるよう、コレステロールの秘密を探っていきましょう。

目次

  1. コレステロールとはどのようなものか
    • コレステロールの正体
    • コレステロールが取り込まれる仕組み
  2. コレステロールの種類とそのはたらき
    • 脂質代謝の仕組み
    • HDLコレステロールのはたらきとLDLコレステロールのはたらき
    • 細胞を形作るコレステロール
  3. 適正なコレステロールを維持するためには
    • コレステロールの摂取基準
    • コレステロールのバランスが崩れたら
    • コレステロールのバランスを維持するために
  4. まとめ

コレステロールとはどのようなものか

コレステロールの正体

人間を含むあらゆる生物は、その生命維持のために外界から必要な物質を取り込み、いろいろな形に変化させています。
こうした過程を「栄養」といい、生命維持を維持するために食物として摂取される物質のことを「栄養素」といいます。
栄養素は大きく5種類(糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)に分類され、特にエネルギー源として重要な3種類(糖質、脂質、たんぱく質)は、三大栄養素とよばれています。
体内に摂取された栄養素は分解され、エネルギー源として利用されるほか、グリコーゲン、中性脂肪(トリグリセリド、以下TG)のように体内に貯蔵されたり、たんぱく質のように細胞の構成成分になる物質に合成されたりします。
このように体内に取り込んだ物質が変化することを代謝といいます。
糖質や脂質は、代謝によりエネルギーを生み出すため、この代謝を特別に「エネルギー代謝」といいます。
脂質には次のような役割があります。 

  • エネルギー産生の主要成分
  • 細胞膜をつくる成分
  • 脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)やカロテノイドの吸収を助ける

生体内で存在している脂質には、コレステロールの他に、TG、リン脂質、糖脂質などがあります。
このうち、コレステロールは全体の20~30%が体外から取り込まれ、70~80%が肝臓で合成されます。
その後コレステロールは、血流にのって全身の細胞へ運ばれます。※1、2
全身の細胞に届けられたコレステロールは、細胞膜を構成する主な成分として使われたり、ホルモンの原料となったり、胆汁酸やビタミンDへと代謝されたりします。
コレステロールは、人の体が生きていく上で、欠かせない栄養素なのです。※3

コレステロールが取り込まれる仕組み

脂質には、生体成分のうち「水に溶けにくい物質」という意味があります。
体内に含まれる成分の中では、水分の次に多い物質です。
主に小腸で消化され、脂質の種類ごとに複雑な過程を経て体に取り込まれます。※4
食事などから摂り込んだ脂質は、やがてコレステロールという形に変わります。
コレステロールには、全身の細胞を形作り、元気にするという働きがありますが、すべてを使い切るわけではなく、血液にのって全身へと運ばれたコレステロールも、一部は不要となって返されることがあります。
全身の細胞から不要とされたコレステロールは肝臓に戻り、一部は胆汁の中に含まれる形で胆のうから分泌されますが、そのほとんどが小腸で再吸収され、門脈を経由して再び肝臓に戻ります。
再吸収されなかった一部の過剰なコレステロールは、腸管の中を通って便となって排泄されますが、その量はわずかです。
一方、食事から体内に取り込まれたコレステロールも、吸収されるのは小腸です。
つまり、コレステロールが吸収(または再吸収)されるのは、すべて小腸ということになります。
小腸に届くまでの間に小さく分解されたコレステロールは、小腸で胆汁や膵液と一緒になり、ミセルと呼ばれる物質に変化します。
ミセルには、TGやリン脂質、コレステロールエステル(コレステロールと長鎖脂肪酸という脂肪の一種)などが入り混じって固まっている状態です。
これが小腸粘膜の細胞に近づくとバラバラになります(開裂といいます)。
するとバラバラになった物質は、コレステロールトランスポーターというたんぱく質と反応しながら、小腸粘膜の細胞に吸い込まれるように吸収されます。
小腸の壁の中では、一旦バラバラになったコレステロールや他の脂質が再び一緒になり、カイロミクロンを形成します。
そこから今度は血管やリンパ管を経由して、全身を巡ることになるのです。

※3 厚生労働省e-ヘルスネット コレステロール/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-012.html
※4 厚生労働省 e-ヘルスネット 脂肪 / 脂質/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-014.html
※1 病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第4版 医療情報科学研究所(編集) 2014年9月 株式会社メディックメディア
※2 カラー図解 人体の正常構造と機能【全10巻縮刷版】坂井建雄・河原克雅(総編集) 2017年1月 日本医事新報社

コレステロールの種類とそのはたらき

脂質代謝の仕組み

腸管から吸収された脂質(TG、コレステロール、リン脂質)は、小腸の粘膜を構成する細胞部分でカイロミクロンという粒子状の物質になり、リンパ管を通って血液の中に入ります。※2
血液の流れにのって全身に運ばれた脂質は、脂肪組織で蓄えられたり、エネルギー源として利用されたりします。また、細胞膜やホルモンなどの材料になったりします。
ところで物質には、極性があるものと極性がないものがあります。
極性とは分子の電荷の偏りのことをいい、極性が近いもの同士では溶けやすく、極性が異なるものでは溶けにくいという性質があります。
極性をもつ(極性が大きい)物質の代表は水、極性をもたない(極性が小さい)物資の代表は油です。
血液の主成分は水ですから、極性が小さい脂質(非極性脂質)であるTGとコレステロールは、水(血液)に溶けず、そのままでは血管に入りこむことができません。
脂質のなかで極性が小さいのは、中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロールです。
そこで非極性脂質は、水になじむように「アポ蛋白」という特殊な蛋白質や極性が大きい脂質に包まれた形になって、血液に取り込まれやすい状態になって存在しています。
この形になった粒子(結合体)を「リポ蛋白」とよんでいます。※1、5、6
リポ蛋白は、次の5種類に大別されます。
カイロミクロン
小腸で合成されるリポ蛋白で、粒子径、リポ蛋白の密度(比重)とも大きく、脂質の割合が最も大きい。
脂質のほとんどはTGで、食事によって摂取された脂質を遊離脂肪酸の形でエネルギーが必要な全身の組織(筋肉など)に運ぶ。
脂溶性ビタミンも運搬し、肝臓に取り込まれると再合成されてVLDLになる。※1
VLDL(超低比重リポ蛋白)
肝臓で合成された脂質(半分以上がTG)を、エネルギー産出のために、遊離脂肪酸の形で全身の末梢組織に運ぶ。※1
IDL(中間比重リポ蛋白、VLDLレムナント)
VLDLの分解によって残された脂質で、コレステロールの割合が大きくなったもの。
VLDLとLDLの中間の性質がある。※1
LDL(低比重リポ蛋白)
IDLからさらにコレステロールの割合が増え、約半分を占める。
末梢組織にコレステロールを運ぶ役割があり、LDL中のコレステロールをLDLコレステロールという。※1
HDL(高比重リポ蛋白)
アポ蛋白が約半分を占めるため、サイズは小さいが最も重い。
肝臓や小腸で合成され、末梢組織、血液中や動脈の壁にたまった余分なコレステロールを回収し肝臓に戻す「再分配」をする。
HDL中のコレステロールを「HDLコレステロール」という。※1
簡単にいえば、肝臓で合成されたコレステロールを全身の細胞に運ぶ役割を持っているのがLDLコレステロールで、からだの末梢組織から余分なコレステロールを回収する役割を持っているのがHDLコレステロールです。
LDLコレステロールは、細胞にあるLDL取り込み口(受容体)から取り込まれ、細胞の元気を助ける働きがあります。※7

HDLコレステロールのはたらきとLDLコレステロールのはたらき

細胞から本来取り込まれる量や肝臓で合成される量、小腸に吸収される量、からだの中で使われる量、排せつされる量など、コレステロール全体の量は一定に保たれていて、適切にバランスがとられています
そうしたバランスを取って一定に保つための仕組みがうまく働かないと、血液中のLDLコレステロール量は増えてしまうことになります。
例えば、体の中のさまざまな成分のバランスが崩れる、肝臓での合成が増える、LDL取り込み口の数が減る、食事から摂る脂質の量が増える、などがその原因です。
体に吸収される量にも限界がありますから、LDLコレステロールが増えすぎてしまうと吸収できなくなります※7
吸収されなかったLDLコレステロールは血液中に残り、血管壁に付着し始めます。
これに対してHDLコレステロールは、余分なコレステロールを回収し肝臓に運ぶはたらきと、血管壁に付着したコレステロールを引き抜く働きがあります。
こうしたはたらきを持っているHDLコレステロールは、血管の健康を取り戻すのに一役買っているため、善玉コレステロールと呼ばれます。※5、6
しかし、HDLコレステロールにも弱点があります。
喫煙や運動不足などの生活習慣によっては、HDLコレステロール値が下がってしまうのです。※7

細胞を形作るコレステロール

コレステロールには、次のような役割があります。

  • 細胞膜をつくる
  • ホルモンやビタミンDの原料になる
  • 胆汁酸の原料であり、食事内の脂肪やビタミンの吸収を助ける

前述の通り、コレステロールには善玉(HDL)コレステロールがあり、それとは逆の働きをするコレステロール(LDL)を悪玉コレステロールという呼び方をします。
しかし、悪玉といわれるLDLコレステロールには、全身の細胞を形作る細胞膜の原料となる、という働きがあります。※1、5、6
コレステロールと聞くと、良い印象を持たない方もいるかもしれませんが、体の中の量が適切であれば、私たちの体は元気になり、健康を維持できるようになるのです。

※5 厚生労働省e-ヘルスネット LDLコレステロール/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-072.html
※6 厚生労働省e-ヘルスネット HDLコレステロール/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-071.html
※7 日本動脈硬化学会 コレステロール摂取に関するQ&A /2019年6月27日閲覧
http://www.j-athero.org/general/colqa.html
※1 病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第4版 医療情報科学研究所(編集) 2014年9月 株式会社メディックメディア
※2 カラー図解 人体の正常構造と機能【全10巻縮刷版】坂井建雄・河原克雅(総編集) 2017年1月 日本医事新報社

適正なコレステロールを維持するためには

コレステロールの摂取基準

日本では、国民の健康の保持・増進を図る上で接種することが望ましい、エネルギー及び栄養素の量の基準が示されています。
「日本人の食事摂取基準(2015年度版)」の策定目的には、従来の「生活習慣病発症予防」に「重症化予防」が加えられ、脂質の摂取基準が示されています。
これによると、1歳を過ぎたら男女ともに総エネルギーに占める脂質の割合を20~30%とすることが望ましい、とされています。※8
また、血液中のコレステロール値の基準もあります。

  • LDLコレステロール:140mg/dL未満
  • HDLコレステロール:40mg/dL以上
  • TG:150 mg/dL未満

これが、「正常」とされる値です。※9

コレステロールのバランスが崩れたら

コレステロールの状況と深い関係があるのが、肥満です。
肥満が続くと、やがてHDLコレステロールが減ってきます
すると、全身から不要となったコレステロールを運ぶというHDLコレステロールの働きが十分になされなくなり、それぞれのコレステロールのバランスが崩れて、血清脂質値に異常を来すようになります。※10
血清脂質値に異常があるということは、すなわち、コレステロールのバランスが崩れているということです。
多少の崩れであれば、体の不調として現れることはありません。
しかし、その状況が長く続くということは、気付かないだけで、すでに血管の内側に余分なコレステロールが付着していると考えられます。
一度、血管にコレステロールが付着すると、そこには血液中のコレステロールがどんどん重なってきます。
やがて血管の内側が狭くなって血液の流れを妨げるようになり、全身にさまざまな不調が出てくるようになります。

コレステロールのバランスを維持するために

現代に暮らすわたしたちが、コレステロールのバランスを上手く維持するためにはやはり、脂質過剰とはならない食事や、生活習慣を整えることが必要です。
具体的には、次のようなことを避ける生活が望ましいとされています。

  • 動物性脂肪の大量摂取
  • 食物繊維や野菜の摂取不足
  • 運動不足
  • 過度の飲酒

この他にも、喫煙や受動喫煙は、タバコの煙に含まれる有害物質が、体の中のさまざまな物質のバランスを崩してしまう可能性があります。
特に、HDLコレステロールを減らしてしまう、あるいは血管を傷つけてしまうことでLDLコレステロールを増加させてしまうなど、さまざまな影響が出てきます。
動物性脂肪の大量摂取については、肉類の脂身や鶏肉の皮、ラード、バター、乳脂肪などを摂り過ぎると、血中のコレステロールが増えるとされています。
食物繊維をたくさん摂ると、コレステロールの吸収を抑え、腸の働きを助けてくれます。
特に野菜にはビタミン類と食物繊維が多く含まれているため、体の調節機能が上手く働き、さらにコレステロールの吸収を抑える効果が期待できます
また、適度な運動(目安としては1日30分以上)は、TGを減らし、HDLコレステロールを増やす効果があるとされています。
さらに、脂質のバランスが大きく崩れてカイロミクロンが非常に多くなっている場合、アルコールは厳禁とされています。※11、12、13
これらのような「体には良くないこと」を排除して、健康的な食習慣や生活習慣を維持していくことが、コレステロールのバランスを維持することにつながるのです。

※8 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要/2019年6月27日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf
※9 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 脂質異常症(高脂血症) /2019年6月27日閲覧
http://www.seikatsusyukanbyo.com/guide/dyslipidemia.php
※10 一般社団法人 日本肥満症予防協会 肥満により脂質異常症が起こるメカニズム/2019年6月27日閲覧
http://himan.jp/column/diseases/007.html
※11 国立循環器病センター 「脂質異常症」といわれたら/2019年6月27日閲覧
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/obesity/pamph85.html
※12 厚生労働省e-ヘルスネット 脂質異常症(実践・応用)/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-013.html
※13 厚生労働省e-ヘルスネット 脂質異常症を改善するための運動/2019年6月27日閲覧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-003.html

まとめ

コレステロールの種類や摂り方、コレステロールとからだの仕組みを知り、上手く付き合っていくことが、いつまでも元気な体づくりには必要なのです。
より長く健康な状態を維持し続けていけるよう、今のうちからできることを見つけ出し、毎日の生活に取り入れていきましょう。
ちょっとした工夫が、この先の健康をつくっていくことにつながるのです。

ライター
岡部
看護師
埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。
一般向けおよび医療従事者向け書籍
○執筆・編集協力
・看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)
・看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)  他
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